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【黒川塾44】e-Sportsの明日はどうなる?さまざまな課題に対する取り組みがテーマに

1月13日、黒川文雄氏が主宰する「黒川塾(四十四)」が行われた。2016年はVR元年と呼ばれVRの話題に隠れつつも、e-Sportsが盛り上がりつつあった年となったが、はたして2017年はe-Sportsが来るのかどうか、業界のキーパーソンをゲストにセッションが展開した。

e-Sportsの協会や現役選手が業界の未来を語る

2017年初回を飾る第44回黒川塾のテーマは「eスポーツとプロゲーマーの明日はどっちだ!」。

e-Sportsに異なる立場で関わる4名のゲストを迎え、プロスポーツとしてのe-Sports、プロゲーマー、それを取り巻く環境についてのセッションが繰り広げられた。

黒川塾(四十四)ゲスト

  • 筧誠一郎氏:日本eスポーツ協会事務局長
  • 馬場章氏:日本eスポーツ協会理事
  • 佐野真太郎氏:e-Sports実況者(キャスター)
  • 中山大地氏:プロゲーマー

左から筧誠一郎氏、馬場章氏、佐野真太郎氏、中山大地氏。いずれも日本のe-Sports業界に深く携わる人物だ

筧誠一郎氏が語るe-Sportsの現状

セッションはまず、e-Sportsとは何なのか、日本や世界での現状はどうなのか、という点について筧氏による解説からスタート。

そもそも「スポーツ」という言葉は日本では「運動・体育」という意味合いで使われるが、「楽しむ・競技をする」という意味を持つ。

そのため、チェスのように体を動かさないものもスポーツの範疇に入る。そして、e(electronic:電子の)-Sportsも、ゲームを題材にしたスポーツであるというわけだ。

世界的なプレイヤー人口を見ると、FPS、MOBA、RTS、格闘ゲーム、サッカーというe-Sportsにおいて主要なジャンルの代表的なタイトルの人口を合算すると、最低でも1億人以上という試算。

ちなみに、サッカー(ゲームではなく、リアルのサッカー)の競技人口が2億6,500万人以上、バスケットボールが約4億人いるとされているが、e-Sportsはそれに次ぐ人口を誇るということになる。

このプレイヤー人口の多さが、e-Sportsが4大スポーツの一角を担う可能性がある主な理由とのこと

各競技の大会では、高額の賞金が授与されたり、オンライン配信やTV中継を合わせると3,200万人が観戦するほど。サッカーゲーム『FIFA』シリーズの大会「FIFA Interactive World Cup」では、優勝するとバロンドール授賞式で表彰されたケースも

また、プロチームも徐々に増えてきており、サッカーやバスケットボール、アイスホッケーなどのフィジカルスポーツのチームが、e-Sportsチームを発足するケースが増えている。

ヨーロッパのサッカークラブに追従する形で、アメリカNBAのチーム、フィンランドのアイスホッケーのチームなどが次々に参画

このように世界的に盛り上がりを感じさせるe-Sportsだが、海外においてもビジネスの規模としてはまだまだ投資の部分が大きいとのこと。

では、日本のe-Sportsのビジネス規模はどうかというと、もちろん海外に遅れを取っている段階。概ね、8~10年ほどの差があるそうだ。

e-Sportsは日本で盛り上がりつつある?

プレイヤー人口で触れられたタイトルを見ると、日本産ゲームタイトルが『ストリートファイターⅤ』しかラインアップされていない。

このことからも、日本のゲーマーにe-Sportsが根付いていない背景がうかがえる。

この現状について、プロゲーマーの中山大地氏による見解が述べられた。

中山大地氏は、「ノビ」のプレイヤーネームで知られるプロゲーマー。ナムコ巣鴨店で『鉄拳』のインストラクターを務めたことでも有名。現在は、遊戯機器メーカーである山佐のスポンサードを受け活動している

中山氏は、2015年に世界大会で2回優勝した際に、スポンサーからの報酬が何倍にも上がった事例を明かした。事実、広告塔としての効果も表れているとのこと。

今後、どんなタイトルにしろ、注目度は上がっていき、市場規模も大きくなっていくと実感している模様。

ちなみに、中山氏がスポンサードを受ける老舗スロット機メーカー山佐は、『鉄拳』シリーズのスロット機を手掛けていることからスポンサー契約につながっているようだ。

続いて、e-Sportsキャスターとしての活動から、2016年11月に発足したe-Sportsプロチーム「CYCLOPS OSAKA athlete gaming(サイクロプス大阪)」の監督に就任した佐野真太郎氏へ、日本に足りないものは何かという話題が振られた。

サイクロプス大阪の監督に就任した佐野氏。キャスター時代は、e-Sportsの大会やイベントでMCや実況を務めてきた

佐野氏によると、足りないもののまず1つはヒーローの存在。

国内で圧倒的な実力を持つ選手と、それを広告としてしっかり使う国内企業、この関係性が必要であると語った。

しかし、選手が強くなるためには時間が必要となる。

さらに、その時間を短縮するためには、お金を動かさなければならない。

つまり、よりビジネス的な動きが加速しないと、日本が海外に並び立つことは難しいという見解だ。

また、国内ゲームメーカーの動きについても、e-Sports用ゲームタイトルを開発する動きを感じ始めているとのこと。

PCのゲームプラットフォーム「Steam」に『鉄拳』や『ストリートファイター』といった国産タイトルが並び始めていることからも、家庭用ゲームメーカーが動き出している印象を持っているそうだ。

国内家庭用ゲームメーカーがe-Sportsを意識しだしているのは他の登壇者も感じており、筧氏によると、『実況パワフルプロ野球』シリーズのイベント「パワプロフェスティバル」では、今年からイベントを「eスポーツ大会」と表記するようになったという。

国内e-Sportsのブレイクスルーに必要なもの

ここまでの話をまとめると、確かにe-Sportsは日本においてムーブメントになりつつあるということがよく分かる。

とはいえ筧氏の言うように、海外から8~10年ほど遅れているのも、また事実。

そこで、2017年、国内のe-Sportsがブレイクスルーするために何が必要なのだろうか、という点について馬場氏がコメント。

東京大学大学院情報学環元教授の馬場氏。現在は、日本eスポーツ協会理事などを務めるかたわら、東京アニメ・声優専門学校 e-sportsプロフェッショナルゲーマーワールドの教壇に立つ

e-Sportsは、すでに産業が発達していたゲーム業界から出てきたスポーツであるため、ゲーム業界の動きとバランスを取りながら取り組んでいかないとブレイクスルーにはならないと語る。

関係各所のステークホルダーそれぞれが、うまくかみ合うことが重要とのことだ。

日本では雰囲気的には盛り上がっているが、大会の賞金額や開催数、制度などが追いついていない、という現状をどう突破するかという課題を提示した。

筧氏は、日本でe-Sportsの普及を阻んでいるものとして法律の問題があるという。

例えば、e-Sportsの大会がゲームソフトの販促利用とみなされれば、景品表示法によりソフトの価格の20倍の額までしか賞金が出せないという問題がある。

さらには、刑法の賭博法により、プレイヤーからお金を集めて賞金に充てることができない、ゲーマーを育てる土壌となるゲームセンターを縛る風営法などが、関わってくる。

どの法律にしても、解釈が曖昧なことに疑問を投げかけ、このような法律の問題を解消することが、日本eスポーツ協会の使命の1つであると考えているようだ。

プロゲーマーやチームの経済事情

話は一転して、プロゲーマー中山氏の収益について話題が転換。

一般的なプロゲーマーは、月給制もしくは年俸制がほとんどだそうだが、中山氏の場合、スポンサーである山佐からの毎月の支援に加え、イベントなどでスポンサーTシャツを着ることによる宣伝費があるという。

また、『鉄拳』のバンダイナムコからイベント出演依頼があり、その出演料やそこでの宣伝の報酬なども収益として発生している。

中山氏の友人のサラリーマンの給料よりは、稼ぐことができているそうだ。

中山氏と異なり、チームとして活動しているサイクロプス大阪の場合、活動費は運営しているeスポーツコネクト株式会社よりまかなわれている。

選手は完全雇用完全給与制となっているが、これは国内では2例目だ。

佐野氏は、このような選手を完全雇用として扱うチームが増えるかどうかはまだ不透明だが、もう少し時間はかかるだろうと見ている。

また、プロチームである以上、契約更新時に、成績によってどうしても解雇しなければならない場合もあるという。将来的には、2部チームを設立するなどの活動が必要になってくると語った。

健全なe-Sports大会運営を目指して

2016年、とあるゲーム大会の運営に不満を持った参加者が、Twitterやブログでその実態を明かしたことが話題となった。

これについて中山氏は、プロゲーマーとしては公の場で自分が参加しているものに対し批判的な行為はできる限りするべきではないとの姿勢を述べたうえで、「内容を見る限り、これはしょうがいない」と、同じプレイヤーとして参加者の気持ちに一定の理解を示した。

筧氏によると、大会を運営していると、このような批判はよくあることだそうだ。

国内のe-Sportsが過渡期であるため、悪いことは悪いと言いつつも、ことさら問題を大きくするよりは、運営側と参加側の双方が改善点を出し合う構造ができると、業界全体が発展していくはずだと述べた。

日本のe-Sportsを黎明期から知る筧氏。さまざまな課題や展望を語ってくれた

日本は後発の利を生かせる希少なポジション

さらに、黒川氏から、e-Sportsの大会運営組織や関連企業などが乱立しているのではないか、という疑問が投げかけられた。

これに対し馬場氏は、確かに外から見るとそのように見えるかもしれないが、中で動いている人間が共通していることも多く、進むべき方向が分裂している印象はないと語る。

むしろ目標は一致しており、それに対し、ビジネスとしてアプローチしている人や純粋にスポーツとして関わっている人がいるなど、「アプローチの違い」がそうさせているのではないかと考えている。

馬場氏が考える日本のe-Sportsは、「世界の動向をキャッチアップして、後発の利を生かせれば、世界の先頭に立つ可能性がじゅうぶん残されている」分野だそうだ。

このような位置にいるのは、韓国や北アメリカ、ヨーロッパ諸国ではなく、日本だけではないだろうか?

e-Sportsプロゲーマーの明日のためにできること

セッションの最後に、ゲスト4名からe-Sportsに賭ける思いが語られた。

中山氏は、「これから先、生涯。願わくばゲームで生活していきたいので、e-Sportsがよくなるような活動をしていきたい」と、プロゲーマーとしてのアプローチでe-Sportsに関わっていくことを宣言。

佐野氏は、「チーム11人を食わしていく責任を負っている立場になりました。e-Sportsが広がることでこれらの責任を果たせると信じています。皆さん応援してください(笑)」と、宣伝を交え、今後の意気込みを語った。

「昨年の10月から専門学校でe-Sportsプレイヤーの育成をやっています。科学的な知見で、長い期間活躍できる選手を育成しようとしています」と、馬場氏はスポーツ心理学に基づいた育成の重要性を説いた。馬場氏の指導の下で育った選手の活躍に期待したい。

最後に、筧氏が、「1月22日に日本eスポーツリーグの決勝大会が行われます。この模様はTwitchで放送するのでご覧ください」と協会の活動を宣伝して第44回黒川塾を締めくくった。