ニュース
TIME LOCKER

TIME LOCKER制作者に聞くインディーデベロッパーの経済事情

  • 2016年10月28日

「あなたが止まれば、時間も止まる」という斬新なシステムで人気を博すシューティングゲーム『TIME LOCKER』。基本的に無料で遊べる本作だが、つい最近、課金システムを導入。このゲームの開発者であるsotaro otsuka氏に、インディーゲーム制作の裏側と経済実情を聞いた。

時間を操る独特なゲーム性をもつTIME LOCKERとは?

動いている間は時間が進む。指を離せば時間が止まる。

従来のシューティングゲームとは一線を画すゲーム性と、スマートフォンにこれ以上ないくらいマッチした操作感で、インディーゲームシーンの台風の目となりつつあるのが『TIME LOCKER』だ。

時間が止まっている間は、自分はもちろんのこと、敵やさまざまな障害物、放たれた銃弾すべての動きが停止。

状況を把握・予測して、安全なルートを見つけ進んでいくという流れでハイスコアを目指すのが基本的な遊び方だ。

時間が止まるといっても、背後が追いかけてくる影は止まることがなく、追いつかれるとゲームオ―バー。

もちろん、敵や弾に当たってしまっても即ゲームオーバーというシビアなルールながら、弾幕シューティングのような鬼畜さは感じず、手軽に遊びやすいことも人気な理由の1つだ。

TIME LOCKER誕生の経緯

――本日はよろしくお願いします。Android版が11月にリリースされるとお聞きしました。最初からAndroid版も開発するつもりだったのですか?

sotaro otsuka氏(以下、otsuka):そうですね。本当は最初から両方同時に出したかったんですけど……、いろいろ焦っちゃって。

とりあえずiOS版を先に出して、その後Android版を出そうと思って、すぐに開発に取り掛かりました。

ただ、想像以上に難航してしまい、いったんAndroid版の開発は止めないと、何も進まないまま時間だけ経ってしまうなと思ってiOS版の更新をしていたら、他にもいろいろな問題が出てしまい、こんな時期になったという経緯です。

――もともと勤めていた会社でスマートフォン向けゲームの開発をしていたそうですが、退職されて個人で開発をするに至った理由をおしてください。

otsuka:自分に合ってなかったというのが大きいですね。ソーシャルゲーム系だったんで。

「剣・竜・美少女」みたいな、よくあるゲームを作っていたんですが、僕はそういうのがあんまり好きじゃなかったんです。

好きじゃないと、なかなかやる気はでないですよね。活躍もできないなと思って、会社は退職しました。

――ご自身では、どういったゲームが好きなんですか?

otsuka:実はそこまでゲーマーではないんです。

子供の頃はけっこうゲームをやっていて、『バイオハザード』は大好きでした。

大人になってからはバイオの流れで『Dead Space』シリーズをひたすらやりこみましたが、それだけです。

開発者としては恥ずかしいことなのですが……。

otsuka氏が捉える日本とアメリカの違い

――TIME LOCKERの制作中に会社を退社されたそうですが、手応えというか、TIME LOCKERで生計が立てられる見通しがあったのしょうか。

otsuka:「いけるかな?」っていう部分もありました。

それに、専門家(プログラマやモデラーなど)としては会社で活躍できるほどの実力がないので、このままではいつか食いっぱぐれるという危機感もありました。

――では、退社後は貯金で生活を?

otsuka:そうですね。何年も前から、いつか自分でゲームを作ろうと思っていたんで、それまでずっと貯金してたんですよ。

それで、ある程度たまって、ゲーム1本作れるくらいはあるかなって思って踏み切りました。

――現在、TIME LOCKERでの収益は、想定と比べてどうですか?

otsuka:iOS版リリースから3ヵ月ほどの数字ですが、想定ではもっと稼いでたはずなんです。ですが、ぜんぜん足りてないです。ダウンロード数が少ないですね。

ユーザー1人あたりの単価は、想定よりもかなり高かったんですよ。だから何とか助かったんですけど、ダウンロード数が足りなくて、収益自体も足りてないといった感じです。

――海外でも配信されていますが、日本と比べて反応はどうですか?

otsuka:日本というか、アジアでの受けがいいですね。もともとは日本よりも、アメリカやカナダなどに向けて作ってるんですよ。

でも、いざふたを開けたら予想とは異なる結果になりました。ダウンロード数は、アジアと欧米は同じくらいなんですけど、反応としては日本人の方が全然いいです。

高得点を取るのも日本人。それに次いで、中国、韓国、台湾と続きます。

――それはゲーム人口の違いによるものなんですかね?

otsuka:いや、文化の違いです。

最初は『Crossy Road(クロッシーロード)』みたいなゲームを作ろうと思ったんですね。今まで自分が会社で開発してきたような日本のソシャゲじゃなくて。

でも、クロッシーロードではあまりにもシンプルすぎて物足りない。もうちょっとだけゲーム性が強いクロッシーロードのようなゲームを出したらいけるんじゃないか、と思ってTIME LOCKERを作ったんです。

クロッシーロードは、行き交う車に轢かれないよう、タイミングよくタップしていくシンプルなゲーム。世界中で大ヒットしているが、わずか3名という小規模なチームが制作したゲームだ

その結果、RPGのようなガッツリしたパラメータがあるゲームと、クロッシーロードみたいな超カジュアルゲームの中間になったわけです。

それが、アメリカ人からしたら、たぶん難しすぎるんではないかと思いってます。

逆に、日本のパラメータが多すぎるゲームに辟易していた層が、「面白いじゃん! ちょうどいいじゃん!」ってなったんだと思います。クロッシーロードは単調すぎるっていう人がハマっている。

――私たち日本人からしたら、TIME LOCKERはむしろシンプルだと感じますけど、アメリカ人には難しいんですね。

otsuka:なんといってもパラメータをやめたかった。あと、RPGから離れたかった。

じっくり遊ぶならコンシューマーゲーム機でいいゲームがたくさんあるし、僕にとってスマホゲームは電車に乗っているときとか、ちょこちょこっとした合間に何も考えずにやりたいもの。だから、レベル上げみたいな要素は入れませんでした。

その代わりに、1プレイの中で武器をガンガン積んでいくという超短期間での成長要素を重視しました。死ぬと装備はなくなります。

――思ったよりアジアで受けたということは、今現在行っているアップデートは、アジアのプレイヤーに向けたものを実装したりしてるのですか?

otsuka:そうですね。そこの意識は強くなっていますね。

今より稼いでいたサラリーマン時代

――1ユーザー1回きりの課金システムを実装されましたが、購入しているユーザー数はどうですか?

otsuka:全然買われてないです!

――購入すると、コインの回収がだいぶ楽になりますよね。

otsuka:そうですね。買っちゃうと、広告の動画を見なくなるほどですね。

――課金してもらうのと、無課金で広告動画を見続けてもらうのはどちらがいいんですか?

otsuka:どうなんですかね、買った方がいいとは思いますよ。人によりますが。

たとえば、これから1年間プレイする人だったら動画の方が収益が多いかもしれない。まぁ、あまりいらっしゃらないとは思いますが。

――では、思ったより購入者が少なかったってことですかね。収益的に失敗だったんですか?

otsuka:課金は最初から当てにしてなくて、動画を見るのが面倒だから課金したいっていう要望がそれなりにあったから、それに応える形で入れたっていうだけです。

僕としては課金はなくても全然いいですね。

――収益アップを狙ったわけではないんですね。

otsuka:そうですね。

ユーザーの要望により実装したという課金要素。購入すると、コインが無課金状態よりもたくさん集まり、キャラクターの入手などのサイクルが速くなる

――今後、新しい課金モデルを導入することは考えていますか? 例えば、課金でガチャが回せてキャラクターが手に入るとか。

otsuka:検討はしています。課金で買えるキャラクターみたいなのは考えています。入れられる余裕があったら入れるかもしれないです。ただ、そうすると「稼ぎにきたな」などといわれるかもしれないですけど。

――個人で開発していると、会社に勤めていたときと比べて大変なことってありますか?

otsuka:全部大変です。

――1日のスケジュールってどんな感じなんですか?

otsuka:そこはけっこうキッチリしてるんですよ。

朝は6:30くらいに起きて、ずっと仕事をしまくって、夜は23:00くらいには寝る。朝方です。

1人暮らしではなく、妻がいるので。そこがずれてきちゃうのはよくないかなって思って。

――奥さんとはいつごろご結婚を? 会社をやめるときに反対とかされなかったんですか?

otsuka:やめるちょっと前に結婚しました。

結婚するときから、「そのうち会社をやめて個人でやるけど大丈夫か」ということは聞いてて、そしたら「大丈夫」っていわれたんで。

――正直な話、TIME LOCKERだけで養えるほど稼げてますか?

otsuka:まぁ、生活はできてますね。実は、今もまだ貯金で生きてます。

まだ、サラリーマン時代の年収には追い付いてないんですよ。当時の方が稼いでました。僕としてはもっと稼ぐつもりでやってたから、すごく辛くはありますけど。

――TIME LOCKERほど知られているゲームでもサラリーマンほどは稼げていないということは、個人でゲームを作っている人のほとんどがサラリーマンほどは稼げていない?

otsuka:それはもうすごい数の人がそうでしょうね。

そういう意味では、最低ラインは超えているとは思いますが……。

多くの人は1,000ダウンロードまでいかないのが現実かもしれません。TIME LOCKERはなんとか30万ダウンロードぐらいです。

でも、課金でガッツリ稼ごうっていうゲームじゃないので、もっとダウンロード数は必要です。本当は100万ダウンロードいきたかった。そこが成功か失敗かのボーダーラインだと思って。

――それはどの程度のスパンで考えていましたか?

otsuka:配信開始1ヵ月ぐらいでです。相当自信があったっていうことでしょうね。

――今後、100万ダウンロードは達成できそうな見込みですか?

otsuka:いや、いかないと思いますよ。これは限界があると思います。

Android版がどうなるかによりますが、Google Playがフィーチャーしてくれたりしたら、100万に届く可能性は残っていると思います。

本当にヒットするゲームって、iOS版だけの時点でもっといってるんですよね。『Steppy Pants』とかiOS版だけで超ヒットしてましたし。

でも、自分の感覚が中途半端だったからしょうがないです。『Steppy Pants』とかって本当に単純じゃないですか。

僕にとってはやっぱり物足りないんですよ、ゲームとして。でも、アメリカ人にとってはあれが最高なんですよ。

otsuka氏いわく、アメリカ人にとって最高のスマホゲーム『Steppy Pants』。画面に触れている時間で歩幅を調整して、障害物を回避しながら進むシンプルなゲーム

――ダウンロード数が足りていないということですが、今後のアップデートは新規獲得に向けた施策を打っていくのでしょうか?

otsuka:うーん、思いつかないですね。この前のアップデートでセリフをしゃべるようになったり、シェアするとコインがもらえたりとかを実装していますけど、付け焼刃なんで。評判はあまりよくありません。

それも次のアップデートでは切っちゃってます。セリフは30種類くらい用意してたんですけど、2ちゃんねるとかで寒いっていわれてました。僕も苦し紛れで入れてただけなんで、よくないなとも思ってました。

――やっぱり、ユーザーの声で気になるものですか?

otsuka:気になりますね。ずっと見てます。Twitterは、TIME LOCKERのハッシュタグで検索した画面を表示し続けてます。あらゆるところをエゴサーチしまくってます。どの開発者はみんなそうだと思いますよ。

アップデートや新作など、otsuka氏の今後の展望

――直近のアップデートの予定はどんなものを予定していますか?

otsuka:まずはアップデートよりも、Android版の開発をやろうと思ってます。1ヵ月くらいで終われる予定です。

その後は、iOS/Android両方同時にアップデートできるようになってきたときに、キャラクターの追加やステージを追加したりしたいです。出てくる敵が違ったりするステージを作りたいですね。

――しばらくはTIME LOCKERに関する開発といった感じでしょうか。新作って考えていますか?

otsuka:考えてますよ。考えてますけど、また新しいものを作るのは大変なんで、とりあえず今は、TIME LOCKERでできるところまではやりたいですよね。

――「INDIE STREAM AWARD 2016」の「BEST OF INDIE STREAM」を受賞されましたが、他にも賞レースとかインディーゲームのイベントに出展したりすることは考えてますか?

otsuka:コンペは出したいなって思ってます。今回初めて出したINDIE STREAM AWARDで賞もらえたんで、「あ、賞もらえるんだ」って思って。

賞金のある海外のコンペにも出したいなって思ってます。

――最後に、お金を稼ぎたいのか、好きなものを作りたいという考えからなのか、個人でゲーム開発をする根底にある考えって何ですか?

otsuka:やっぱり好きなものを作りたいっていう気持ちが満たされないと、どんなにお金を毎月もらえて、土日も休めて楽しいことができておいしいものが食べれてってなっても、僕にとっては本当に楽しくはない。

今の方がすごくヒリヒリして辛いですけど、幸せです。ただ、これは人によってよりけりで、人によって幸せは違うので、どっちがいいとか悪いとかは絶対にないと思ってる。

下手すると「自分は1人でやってて、自由に生きてるけど、お前らは社畜だぜ。」って捉えられるんですけど、全然そんなことはない。本当に人それぞれだと思ってます。