【法林岳之のFall in place】第23回: MVNOに低料金とiPhoneで対抗するワイモバイルとUQ mobile

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NTTドコモ、au、ソフトバンクから設備を借り受け、割安な料金プランでサービスを提供するMVNO(Mobile Virtual Network Operator)の市場が拡大しつつある。今年7月に調査会社のニールセンから発表された「スマートフォン・メディア利用実態調査レポート」によれば、スマートフォン利用者の内、MVNO利用者が占める割合は、2015年6月の調査の5%から倍増し、10%に達するところまで普及しているという。

SIMカード単体契約でも攻めるワイモバイル

MVNO利用者増の状況に対し、NTTドコモやau、ソフトバンクの携帯電話各社は、総務省がMVNO推進の方針を打ち出していることもあり、しばらくは静観する構えを見せていたが、ここに来て、新しい動きが見えてきている。

現在、家電量販店の携帯電話コーナーに出向くと、NTTドコモ、au、ソフトバンクが大きな展示コーナーを確保しているが、その一角にソフトバンクグループのワイモバイルのコーナーがある。

あらためて説明するまでもないが、ワイモバイルは「イー・モバイル」ブランドで携帯電話サービスを提供していたイー・アクセス、PHSサービスを提供していたウィルコムが2013年に合併して生まれたものだ。

2014年からはYahoo! と連携した「Y!mobile」ブランドでのサービスを開始したが、2015年4月には会社としてのワイモバイルはソフトバンクモバイル(現在はソフトバンク)に吸収合併され、現在はソフトバンクのサブブランド的な位置付けとして、サービスを展開している。

ワイモバイルは主要3社に対抗し、わかりやすい料金体系を実現するため、月々の基本使用料にデータ通信料やインターネット接続料を含んだコミコミの料金プランを展開している。

「スマホプランS」が1GBで月額2,980円、「スマホプランM」が3GBで月額3,980円、「スマホプランL」が7GBで月額5,980円という構成。

通話料については他社向けや固定電話向けも1回につき、10分以内であれば、月に300回までは無料という内容で、スマートフォンを安く使いたいというユーザーを中心に注目を集めている。

ただ、端末ラインアップは主要3社に比べると、あまりバリエーションが豊富ではなく、ユーザーとしてはなかなか選びにくい印象もある。

昨年はGoogleのNexus 5X(LGエレクトロニクス製)など、注目度の高い端末もラインアップに加えているが、国内メーカーの端末はソフトバンクが販売したモデルのカラーバリエーションや型落ちモデルなどが中心で、独自の端末はなかなか提供できていないのが実状だ。

また、旧イー・モバイルではドル箱とされていたモバイルWi-Fiルーターの「Pocket Wi-Fi」シリーズ。

現在では、スマートフォンのテザリングの普及に加え、MVNO各社のSIMカードで利用できるSIMフリーのモバイルWi-Fiルーターの登場、他の通信事業者の対抗製品の攻勢などもあり、一時期ほどの勢いを感じられなくなりつつある。

こうした状況の中、今年の春商戦あたりから家電量販店のワイモバイルの展示コーナーでは、ワイモバイルのSIMカードに、各メーカーのSIMフリー端末を組み合わせて販売するケースを見かけるようになってきた。

ワイモバイルはもともと、前述のプランでSIMカード単体の契約を受け付けていたが、店頭にSIMフリー端末のラインアップが増えてきたことを受け、家電量販店などがこれらと組み合わせた販売を始めたわけだ。

しかも、販売店ではこれに販売奨励金を適用したため、ワイモバイルのSIMカード単体を契約すると、各メーカーのSIMフリー端末を2万円程度、割り引くといった販売が可能になってしまった。

SIMフリー端末には店頭価格が2万円程度のものもあるため、実際にはSIMカード単体の契約をすることで、SIMフリー端末が実質無料で入手できたわけだ。

MVNO各社も端末ラインアップをある程度そろえ、最近では家電量販店にもカウンターを構えて販売をしている。

だが、主要3社やワイモバイルのような端末購入に伴う月額割引サービスを提供していない上、新規契約やMNPなどに伴う販売奨励金も出していない。

そのため、ワイモバイルのSIMカード単体の契約に販売奨励金を適用する手法を使われると、MVNOとしては価格面で勝ち目がなくなってしまうわけだ。

さらに、今年3月には主要3社がiPhone SEを発売するタイミングと前後する形で、iPhone 5sを販売することを発表し、業界を驚かせた。

iPhone 5sは2013年発表のモデルで、Appleはすでに主要国での販売を終了している存在。Appleとしては、3月に発売されたiPhone SEの投入で、iPhone 5s以前のモデルからの乗り換えを狙っていたが、価格重視で攻めるワイモバイルが国内で販売することになってしまった。

ちなみに、ワイモバイルが販売するiPhone 5sは16GBモデルと32GBモデルで、一括購入価格は16GBが5万4,540円、32GBが6万4,908円に設定されている。

新規契約時の基本使用料と端末の24回分割払いをまとめた支払い額は、16GBモデルで3,434円、32GBモデルで3,758円に抑えられている(いずれも当初の12ヵ月のみの支払い額)。

性能的には明らかにiPhone SEには劣り、買うならiPhone 6sの方がおすすめだが、それでも「安くiPhoneを購入したい」という声は根強いようで、好調な販売を記録しているという。

ライバルのUQ mobileもiPhone 5sで攻勢

ワイモバイルとは少しポジションが異なるが、UQ mobileも同じように、格安SIMや格安スマホのサービスを展開するMVNOに攻勢をかけようとしている。

UQ mobileはau 4G LTEネットワークを借り受けたMVNOサービスだが、他のMVNOサービスとは少し位置付けが異なる。

UQ mobileのサービスを提供するUQコミュニケーションズは、「UQ WiMAX」の名称でモバイルブロードバンドのWiMAXサービスを提供してきた会社だ。

このUQコミュニケーションズとは別に、KDDIがau 4G LTEネットワークを活用したMVNOサービスを推進するためのMVNE(Mobile Virtual Network Enabler)サービスを提供する「KDDIバリューイネーブラー」という会社を設立し、そこで自ら「UQ mobile」という名称のMVNOサービスを提供していた。

2015年8月には市場環境の変化に伴い、UQコミュニケーションズがKDDIバリューイネーブラーを吸収合併することになり、現在はUQコミュニケーションズで「UQ mobile」というMVNOサービスが提供されている。

吸収合併前のUQ mobileではau 4G LTEネットワークに対応した端末が必要とされるため、端末ラインアップはau向けに供給していたモデルのバリエーションが中心だった。

その影響もあり、MVNOとしては今ひとつ存在感が薄く、同じau 4G LTEネットワークを利用したMVNOサービスとしてはケイ・オプティコムが提供する「mineo(マイネオ)」などにかなり遅れを取っていた。

そんなUQ mobileだが、UQコミュニケーションズの吸収合併の影響もあってか、ワイモバイルやMVNO各社への対抗を意識した施策を打ち出してきている。

料金面ではワイモバイルの「スマホプランS」対抗となる月額2,980円の「ぴったりプラン」の提供をスタートさせた。

ぴったりプランは基本使用料に1GB分のデータ通信と1,200円分の国内無料通話が含まれているが、最大2年間、データ通信量と国内無料通話分を2倍にする「データ増量キャンペーン」を実施しており、さらにお得感を演出している。

これに加え、新規契約とMNP(auおよびau系MVNOを除く)ユーザーを対象に、最大1年間、月額1,000円を割り引く「イチキュッパ割」を導入しており、端末代を除けば、月々1,980円でスマートフォンを利用できる環境を整えている。

同様の施策はすでにワイモバイルが「ワンキュッパ割」という名称で提供しており、UQ mobileはこれに対抗したことになる。

そして、UQ mobileではワイモバイルの後を追うように、7月15日から「iPhone 5s」の販売を開始する。容量は16GBのみで、端末価格は5万400円に設定されている。

端末代金は24回の分割払いを選び、ぴったりプランで「イチキュッパ割」や2年契約の「マンスリー割」などを適用したときの実質負担額は当初の13ヵ月が月額2,680円、14ヵ月目以降は月額3,680円で利用できる計算だ。

MVNO対抗施策を打ち出さないNTTドコモ

端末代金の分割払いと月額基本使用料を含め、月額2,000~3,000円を切るような設定で攻勢に出てきたワイモバイルとUQ mobileだが、なぜ、ここまで強気の施策を打ち出してきているのだろうか。

その1つの答えが、冒頭のMVNOの拡大にある。MVNOは当初、データ通信などを存分に使いたいユーザー層を中心に注目されてきたが、最近ではスマートフォンを安く使いたいビギナーもかなり増えてきている。

もともと、ソフトバンクや旧イー・モバイル、旧ウィルコムはNTTドコモなどの料金プランに対し、低価格であることを強くアピールして契約数を伸ばしてきたが、そういったユーザーは同じく低価格をアピールするMVNO各社にも流れやすく、その動きが顕著になってきたためだ。

これに対し、NTTドコモはあまり積極的にMVNO対抗の施策を打ち出していない。

ほとんどのMVNO各社はNTTドコモのネットワークを借り受けているため、ソフトバンクやワイモバイル、auなどからMVNO各社にMNPで移行することは、間接的にNTTドコモの契約が増えることがほとんどで、MVNO各社のシェアが伸びてもそれほど大きなダメージがないためだ。

一方、UQ mobileはMVNOサービスで後発になるが、大半のMVNO各社がNTTドコモのネットワークを借り受けている現状で、MVNOのシェアが拡大することは間接的なものも含め、NTTドコモのシェアが増えることになるため、KDDIグループ全体としてはマイナスになってしまう。

だからこそ、グループ内MVNOであるUQ mobileをテコ入れし、au 4G LTEネットワークを利用するMVNOの優位性をアピールしながら、自社ネットワークを利用するMVNOを増やしていきたいと考えているわけだ。

「イチキュッパ」の争いやiPhone 5sの導入だけに注目すると、ワイモバイルとUQ mobileが激しく競争をくり広げているように見えてしまうが、背景には「NTTドコモのネットワークを利用するMVNOのシェアを増やしたくない」というソフトバンクとKDDIの思惑が見え隠れしている。

各社の施策がどのようにユーザーに受け入れられるのか、あるいは受け入れられないのかも含め、今後の動向が注目される。