【黒川塾37】ゲームセンターあらしとVRの未来

  • 2016年07月11日
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7月4日、黒川文雄氏が主宰する「黒川塾(三十七)」が、GTMF 2016(Game Tools & Middleware Forum 2016 )の前夜祭イベントとして、大阪で開催された。

ゲームセンターあらしの世代がVRの未来を語る!

黒川塾が関西で開かれるのは今回で2回目。

『ゲームセンターあらし』の作者であるすがやみつる氏をはじめ、著名な有識者が登壇し、GTMF 2016の前座にふさわしい、有意義なトークセッションとなった。

黒川文雄氏。セガエンタープライゼス(現在のセガ)、デジキューブ、ブシロードなど、さまざまな企業でエンタメに関する流通や広告、企画開発、運営など、多岐にわたって活躍。あらゆるエンタメジャンルに精通したメディアコンテンツ研究家

今回の「黒川塾(三十七)」で登壇したゲストは、以下の4名。

黒川塾(三十七)ゲスト

  • 吉田修平氏:株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントワールドワイド・スタジオ プレジデント
  • すがやみつる氏:漫画家、小説家、京都精華大学マンガ学部マンガ学科キャラクターデザインコース教授
  • 下田純也氏:エピック・ゲームズ・ジャパンサポート・マネージャー
  • 矢野浩二朗氏:大阪工業大学情報科学部准教授

左から矢野浩二朗氏、下田純也氏、すがやみつる氏、吉田修平氏

ゲストそれぞれのVRへの関わり

最初にゲストの自己紹介が行われ、そこで矢野氏は関西方面におけるVR関連の活動について、自身がVRの世界に足を踏み入れた経緯とともに紹介した。

矢野氏がVRに触れるきっかけとなったのは、2013年に行われた「Unityクリエイターズ勉強会」 

さらに関西で行われた「Oculus Game Jam」にも参加。ここには、VRに関わる方々が数多く参加していた

東京では、先日行われた「Japan VR Summit」をはじめ、さまざまなVR関連のイベントや展示会などが以前より行われており、VRに対するかなりの熱量が感じられる。

関西でのイベントで、その熱に触れたことが、矢野氏がVRに興味を持ったきっかけだという。

矢野氏は、2015年に「Oculus Rift勉強会」を開催。その後、子供向けにVRコンテンツを開発している

続いて登壇したのは下田氏。下田氏の所属するエピック・ゲームズ・ジャパンは、FPSゲームファンならおなじみの、Unrealエンジン(UE)を開発している。

下田氏は、VRゲーム開発者をサポートできるものを作りたいと述べた。UE4は無料化もされており、現在のVRゲーム開発にも大きな影響を与えている

続いて吉田氏の自己紹介後、E3で発表されたVRゲームに対する反響へと話題が移った。

E3ではスクウェア・エニックスの『FFXV』、カプコンの『バイオハザード』、さらに『Fallout』や『Doom』といった、いわゆる大作と呼ばれるゲームのVR化が大きな話題となった。

吉田氏も、それらVRゲームへの評判がすこぶるよかったことを報告。また、これまではVR専用のゲームが多かったが、既存IPで参入してきたことに驚いたという。

VRゲームでは、3D酔いや細かい手の動きが再現しづらい点などの問題から、通常のゲームをVR化するのは難しいとされてきた。

その中で、カプコンやスクエニといった大手が、それぞれの持っている大作IPをVR化したのは、非常にチャレンジングなことだと述べた。

最後に自己紹介を行った菅谷氏は、自身がマンガにも取り入れている「視点」について、さまざまな考察を行った。

ここでいう視点とは、マンガやゲーム、映画などで、その作品を誰の視線で描写しているかを指している。

VRゲームでは、主人公の見ているシーンのみが描写される1人称視点が多いが、映像の中でその元祖ともいえる作品の例として、すがや氏は1947年に公開された映画『LADY IN THE LAKE』を挙げた。

『LADY IN THE LAKE』は、ほぼ全編にわたって主人公である私立探偵フィリップの視点で物語が進んでいく。フィリップの顔が作品内で登場するのは、鏡を見たときなど、かなり限られている

すがや氏いわく、『LADY IN THE LAKE』では視点の位置が自分と異なるため、3D酔いのような気持ち悪さがあったという。

現代では撮影用のカメラも進化し、1人称映画のクオリティも上がってきている

技術の進歩により、視点の制約も開放されてきており、例えば口の中から相手を見るような視点も可能になった。

自由な視点はマンガの専売特許だったが、同じような視点が映像でも可能になり、すがや氏は、やっとマンガに世間が追いついてきたと、少し悔しそうに語った。

『ゲームセンターあらし』では、1つのコマの中に、複数の視点を入れるような手法が取り入れられている

国内外で大きな反響を得たPlayStation VR

自己紹介の後、真っ先に話題に登ったのが先月の6月18日に予約が開始された「PlayStation VR」(以下、PS VR)だ。

吉田氏がいうには、予約開始後わずか5分で完了し、Amazonなどのオンライン通販サイトでもすぐになくなり、一般店の予約も即日完了したそうだ。

このままだと、発売日にほしくても手に入らない人が続出するため、現在、第2弾の予約に向けて準備中だそうだ。

ちなみに、第2弾の予約も発売日当日に入手できるものなので、すぐにプレイしたい人も安心してほしい。

なお、欧米での予約も好調で、第2回の予約もわずか数分で完了したという。

予約状況の反響を受け、吉田氏はPS VRへの大きな期待をひしひしと感じたそうだ

PS VRに参入するパブリッシャーも増加傾向にあり、特に元気があるのがインディーズのメーカーだという。

今回のPS VRのように新たなプラットフォームが登場したときは、小さな会社が大手になるチャンスともいえる。

さらに、先ほどのスクエニやカプコンのように大手も参入する動きが出始め、VRに対するいい流れがきていると吉田氏は熱く語った。

また下田氏も、今までは海外の開発者が多かったが、ここにきて日本の開発者がVRゲームにドンドン参加してきていることを感じているそうだ。

日本の開発者がVRに対して前向きにコンテンツを作り、それに対応してユーザーからの要望も出始め、それらが相乗効果となって広がっていくのが理想だと下田氏は語った。

また矢野氏も、PS VRが日本でVRが普及する大きな追い風になっていると語る。

いわゆる一般の人々にとってOculusやHTCは海外製のものであるため、愛着がわきにくい。

しかしPS VRは、日本人のほとんどが知っているソニーの商品なので、気持ち的なつながりを感じやすいのがその理由だ。

それを受けて吉田氏は、PS VRもだが、Oculus Riftやhtc Vive、サムスンのGear VRなど、多くの会社が一丸となったことが今のVR人気につながっていると語り、業界が協力し合うことの重要性を説いた。

『ゲームセンターあらし』誕生秘話

続いて、スペースインベーダー世代にとってのバイブルともいえる『ゲームセンターあらし』の誕生秘話が語られた。

ちなみに、いちばん最初の『ゲームセンターあらし』は読み切りで、ゲームはブロック崩しが登場している。

編集部からの最初の依頼は、単純にテレビゲームが流行っているから、そのマンガを描いてほしいという内容。『ゲームセンターあらし』というタイトルだけは決まっていたそうだ。

さらに、表紙の締め切りが今日だから、今すぐキャラクターの顔だけでも何パターンか描いてくれという無茶ぶりもされたという。

いちばん気に入ったキャラクターだけ色を塗って編集に渡したが、主人公に決まったのは、色を塗っていないキャラクターだったそうだ

最後の必殺技であらしが逆立ちするが、これも逆立ちだけ先に編集部の方で決まっていたという。

すがや氏は、読み切り1回で終わるだろうと思い、リアリティがないとわかってはいたが、逆立ちして必殺技をだすシーンを描いたそうだ。

1回目の読み切りでは人気がなかった『ゲームセンターあらし』だが、インベーダーを題材に描いた2回目の読み切りがヒット。その後、連載へとなったそうだ。

なお菅谷氏は最初、熱血マンガと思いながら描いていたそうだ。しかし、あらしが血まみれになりながらプレイするシーンで、なぜか笑っている読者を見て、これはギャグマンガだと気づいたという。

なお、『ゲームセンターあらし』では1コマの中にさまざまなシーンが描かれているが、これは連載していたコロコロコミックの判型が小さいのがその理由。

狭いコマの中に情報を詰め込むため、そのような技法が必要だったとすがや氏は語った。

強烈なインパクトを発するVR映画の可能性

ここですがや氏が自己紹介のときに話題に出た、VRと映画の関係について話題が移る。

VR映画といえば、昨年発表された『攻殻機動隊 新劇場版 VIRTUAL REALITY DIVER』が記憶に新しい。

菅谷氏は、主人公が登場せず、主役はアナタだといわれたときに、そこで見る気が起こるかが難しいと述べた。

『攻殻機動隊』のように体験だといいが、視聴者が物語の登場人物となるには、意識の改革が必要だろう。

一方、すがや氏はVRでやってほしいこととして、LARP(LIVEアクションロールプレイング)を挙げた。

LARPは、騎士などのコスプレをして、それぞれの登場人物になりきるゲームのこと。戦いでは、剣や盾を持って、当人同士がリアルに戦う。

このLARPがヨーロッパで流行っており、最近は日本でもプレイする人が増えてきたそうだ。

吉田氏がVR映画の可能性として挙げたのは、PS VR向けタイトルの『サマーレッスン』だ。

これまでの映像と異なり、他のキャラクターが自分をしっかりと認知し、話しかけるなどの対応することに大きな衝撃を受けたという。

このように、今まで視聴だったのが、出演者、あるいは目撃者という立場に変わるという体験が、VR映画ではできるようになると語った。

矢野氏は、サンダンス映画祭に出展されたVR映像作品『Across the Line』で受けたインパクトについて語った。

『Across the Line』は妊娠中絶に関する差別をVR体験できる作品。その中で圧巻なのは、後半、デモ隊に中絶への差別用語を浴びせられるシーンだ。

そのシーンの音声は、実際にデモ隊から浴びせられた罵声を録音したもので、ありとあらゆる悪意が凝縮した強烈な内容だったという。

『Across the Line』を見た矢野氏は、VR映像の人の心をえぐるような、インパクトのある内容に驚いたそうだ。

吉田氏は、そのVRで受ける衝撃の強さを利用し、例えば難民キャンプの悲惨な状況を体験させて募金してもらうなど、VR映像の有効な使い方についても言及した。

新たに浮かび上がるVRでの問題点

矢野氏は、自分自身がアバターとなる『Altspce VR』で知り合いとあいさつをした体験を話し、衝撃を受けたと同時に、1つの問題点に気づいたという。

それは、ツイッターなどのSNSでもよく問題になる、セクハラなどの「ハラスメント」行為だ。

ツイッターでは匿名性な点を悪用し、卑猥な言葉によるセクハラや粘着、暴言などが、問題とされている。

VR空間では言葉や文字だけでなく、アバターによるハラスメント行為を受けることもあり、特に女性は受けやすいから注意すべきだと矢野氏は語った。

なお、VR特有のハラスメント行為として、アバターが自分のパーソナル空間に容赦なく入ってくることがあるという。

吉田氏は、とあるVRアプリを体験する際、そのようなハラスメント行為をされたときの対処法についてもレクチャーされたそうだ。

ソーシャルとVRが繋がる世界も近づいているが、今まで以上にネットリテラシーが重要になってくるだろう。

これから新しいコンテンツを作るクリエイターへのメッセージ

最後に、新しいコンテンツを作り続けてきたゲスト4人から、これからイノベーションを起こそうとする人に向けてメッセージが送られた。

矢野氏が、今注目しているものとして挙げたのはAI。ゲームのVR空間にキャラクターを表示させて、AIでモデル化した人間をベースにインタラクティブを行いたいという。

このように、VR技術だけではなく、他の技術と組み合わせることが大事だと語った矢野氏は、将来は新しい人工知能ツールとVRを組み合わせることをしたいそうだ。

下田氏は、海外の有名な映画監督が、さらに面白い見せ方をしてくることに期待しつつ、それを待つのではなく、みなさん自身が参加してイノベーションを起こしてほしいと訴えた。

そういう人たちを応援するのが、今の自分の立場だと、これからのクリエイターにエールを送った。

教授でもあるすがや氏は、学生に対し、ただマンガを描こうとするのではなく、マンガで何をするか、イラストで何をするかまで考えるべきだと述べた。

今は自分のマンガを描くより、次の世代を育てたいという気持ちが強いそうだ。

また、セカンドライフを例に挙げ、VRの世界でもリアルタイムで生の人間同士が関わるコンテンツがほしいと語った。

吉田氏は、今、VRの仕事していて、20年以上前に関わった元祖PlayStationの発売前のことを思い出すそうだ。

当時、ゲームセンターしかなかったCGのゲームを、家庭用ゲーム機で作りたいという、とてつもない熱意を持った人たちがこぞって集まったという。

ここにきて、今まで以上の技術であるVRがやっと手に入り、再び昔のように熱意を持った人たちが集まってきている段階だそうだ。

吉田氏は、今は開発者にとって20年、30年に一度しかない新しいチャンスなのでぜひ参加してほしいと述べ、開発者以外の人に対しても、VRを体験し、来たるべき新しい世界を知ってほしいと熱く語った。