[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第9回: ガチャ確率とLINEの供託金 既成な規制と既定な規定

高収益がもたらすのはブランドイメージのアップなどのいい面だけではなく、ときには儲けすぎ、あくどいという風評を生むこともあります。今再び、スマホゲームの高額課金と収益のあり方と、その収益を巡る攻防があります。この道はいつか来た道、と思うのは私だけではないでしょう。

コンプガチャ騒動とは

3年前の2012年、ゴールデンウィーク中の5月5日に読売新聞が報じたのは、ガラケーで遊ぶことができるGREEやモバゲーのソシャゲにおける課金システムでした。

コインを入れてレバーを回すカプセルトイになぞらえた「ガチャポン」の仕組みをデジタルゲームに取り入れたもの、それが「コンプリートガチャ」(以下、コンプガチャ)と呼ばれるものでした。

ガチャポンでは、何が出てくるかわかりません。しかし、ガチャのマシンを外から見れば確かにほしいものが入っている。他の人が途中でガチャを回さない限り、全部出し切れば必ず手に入るというものです。

一方、ゲームにおけるコンプガチャは、ガチャで購入したデータ(カード)の組み合わせ、そろえてコンプリートさせると、強力なレアアイテムが入手できるというもので、収集心や射幸心を煽る仕組みです。

実際に財布からいちいちお金を出すわけでもないため、熱くなった顧客は知ってか知らずか、数万円~数十万円も消費してしまうという事例が相次ぎ、問題が顕在化しました。

大人が自身の意志でガチャを購入し消費する分には自己責任ですが、未成年は親のガラケーの決済口座から引き落とされる設定をしているケースもあり、後日、高額な請求が来てビックリというケースが相次いだといいます。

その結果、消費者庁に苦情が多数寄せられました。そして、連休明けの2012年5月7日、東京株式市場ではGREEやモバゲーなどのソシャゲ関連会社の株が軒並み下落し、コンプガチャショックと呼ばれる現象が起こりました。

これを受けて、数日のうちに上記2社を筆頭に、コンプガチャのシステム終了を宣言することで騒動は沈静化した……というのがコンプガチャの一連の経緯でした。

ちなみに、この時期のGREE、モバゲーは利益率40~50%というおそるべき数字をマークしていましたが、コンプガチャ終了とともに、ブランドイメージは「ガチャの会社」というイメージが強く残り、売り上げも縮小し、一部リストラやコンテンツの外部への売却や移譲も行われました。

あれから3年、歴史は繰り返す

このところ、「とりあえずグラブル」を始めとして、レアアイテムのガチャ出現確率とそれを手に入れるための顧客の拠出金額が問題になっています。

駄菓子屋店頭のガチャポンは、その気になれば、1人でその中味を出し切ることができます。

しかし、スマホゲームのガチャの場合は、エントリーしている顧客全体のなかでの入手確率になるため、見せかけの簡単なロジックや確率表示では成り立たないことになります。

実際に出現確率が0.007%という驚くほどの低率になるキャラクターもあると聞きます。

これらの課題に関して、一般社団法人日本オンラインゲーム協会(JOGA)と一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)が2016年4月15日に共同での説明会を開催し、ガイドラインを設定しました。

JOGAのルーツは、パソコンオンラインゲーム系パブリッシャーを中心に組織された協会で、MCFはSAPと呼ばれたCygames、GREE、DeNAなどのガラケーを中心にソシャゲを展開していた法人が所属する協会です。

思惑の違いはあれど、歩み寄るという姿勢は一定の評価ができます。

しかし、ガイドランは、レアガチャの取得の推定金額を5万円とすること、レアガチャの提供割合の上限と下限を表示するなどの規定が発表されましたが、あくまでもガイドラインであるため各社への強制力はないと思われます。

今後どれだけの実効が成されるは継続的に見ていなければいけません。

LINEの供託金 見解の相違と内部告発?

一方で、4月6日の毎日新聞が快進撃を続けるLINEの動向に一石を投じることになりました。

こちらは顧客が事前に購入したゲーム中のアイテムやコインという、顧客が将来使用する可能性のある未使用残高資産を不測の事態(ありえないとは思いますが、倒産などのリスク)に備えて保護すべきであるという資金決済法に基づいた業務改善の余地があるというものです。

ちなみにこれは、ゲーム中のアイテムやコインの有効期限を半年以内に設定すれば供託する必要はないという法令です。

半年間は極端でも、2年などの使用期限を設けているケースや、大手オンラインゲームの中には公式サイトに資金決済法対応内容を告示している会社もあります。

関東財務局からLINEへの検査対象コンテンツはすでに4,000万以上のダウンロードを誇る『LINE POP』『LINE ポコパン』で使用するアイテムで、その未使用残高は230億円に上ります。

通常、1,000万円の未使用残高の場合は、半額を「保証金」として供託し利用者・保有者保護を図る義務があります。

今回、関東財務局からの指摘に対して、LINEが、社内用と社外用の見解基準を準備していたことが問題であると同時に、報道をよく読むとLINE社内では「ゲーム上の通貨」という認識をした上で「多額の供託金を逃れるために、仕様変更で疑惑を覆い隠した」と証言する同社関係者がいるということです。

つまり、内部告発といってもいいでしょう。

LINEは4月6日に「法規制の適用を意図的に逃れようとした事実はない」とするリリースを発表しましたが、個人的には、「脱税」などで捜査当局と捜査対象が繰り広げる「見解の相違」では済まないのではないかと思う部分を感じています。

この資金決済法のオンラインゲーム系の会社における見解は、私がLINEの前身であるNHN Japan在籍当時(2011年ごろ)から話題になっており、財務経理系と経営企画系部署での見解を調整で手間取っていたという記憶があります。

LINEのような大きな会社であれば、供託金の拠出対応は可能でしょう。しかし、中小規模の会社ではそうはいきません。

日々の運営だけでも手いっぱいのところはたくさんありますし、外部に運営を委託している会社もあります。ゆえに、詳細を把握していないケースもあるかもしれません。

LINEが拠出金を出したら出したで、その他企業の生命線を脅かす判例になる可能性もあります。

しかし、顧客保護という観点と業界最大手という立場を考えれば早期に供託金の納付という形で決着した方がいいことは間違いないでしょう。

CESAガイドラインの実効力は……

さきほど取り上げたガチャの確率問題においては、共同歩調を取るべきゲーム系の倫理団体はあるにはありますが、加盟各社の足並みがそろわない現実も一方であります。

ここに来て去る4月27日に、家庭用ゲームメーカーが主導するCESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)から「ネットワークゲームにおけるランダム型アイテム提供方式運営ガイドライン」(以下、ガイドライン)が発表されました。

このガイドラインによると、スマホ向けコンテンツにおける有料ガチャのアイテム提供確率を明示することや、運営、検証、問い合わせ窓口など設置することが記されています。

ちなみに、窓口対応に関しては、『LINE:ディズニー ツムツム』の「レベルが下がったことに腹が立った。LINEに電話しようとしたが、電話の問い合わせ先がないことにも腹が立った」という経緯から爆破予告をした容疑者が威力業務妨害で逮捕された矢先のことでした。

このガイドラインへの移行は、一定の期間内(ガイドラインによれば3ヵ月)で移行するものとなっています。

気になるのはガチャに関するガイドラインですが、前提として「全ガチャアイテムの提案割合表示」をユーザーにわかりやすく表示することを規定しています。

ガチャ確率に関しては、取得するための推定金額のガチャ1回の課金額の100倍以内か、もしくは上限5万円以内とされています。

ただし、当該上限を超える場合、ガチャ(表示)ページにその推定金額または倍率を表示すること、または当該上限を超える場合、ガチャ(表示)ページにその推定金額を表示すると記載されています。

しかし、いずれの場合もコンテンツやサービス提供会社の自主的な判断に委ねられるため、必ずしも強制力のあるものではないという点に注意が必要です。

つまり「ウチはガイドラインを守っているのに、アイツのところはなんだ!」という加盟各社同士の腹の探り合いのような事態に発展しないとは限りません。ここは加盟社全体の誠意ある結束が求められます。

自由な発想が許されるゆえの責任

仮にどこかの加盟会社が自社の利益のために独走して、また規制という憂き目にあうことを懸念しています。それによって、ゲーム産業が、遊技機系業界団体のように法律と天下り官僚たちによってがんじがらめにされて、殺生与奪さえ握られてしまうのはいかがなものかと思うのです。

エンタメ産業、特にゲーム産業は、それ以外に比べて自由な発想が許されからこそ、ゲームシステム、課金方法、フォーマットなどで色々な展開ができていることも認識すべきでしょう。

これが何かの規制のもとで管理されたとしたらエンタテインメントとしての未来の発展の可能性も脅かされる可能性があります。

願わくば、顧客のために事案への真摯な対応と解決、自主的な顧客の財産保全基準の見直しと施行を行うべきではないでしょうか。