VRの今がわかる「Tokyo VR Meetup #03 GDC/VRDC最速報告会」レポート

サンフランシスコで開催された「Game Developers Conference 2016(GDC2016)」と「Virtual Reality Developer Conference(VRDC)」を現地で取材した有識者による報告会が、3月22日に行われた。

有識者が語るVR業界の未来と展望

「Tokyo VR Meetup」は、世界各地のイベントで出展されたVirtual Reality(VR)コンテンツをテーマに、現場のリアルな雰囲気を参加者に届けるのがコンセプトだ。

3回目となる今回は、2部構成で行われた。

第1部:GDC/VRDC 最速報告会

登壇者

【広田稔氏】

VRジャーナリスト、VRパノラマ系メディア「PANORA」編集長

【新清士氏】

VR系のスタートアップを支援するTokyo VR Startups取締役

【渡部晴人氏】

株式会社gumi VRエンジニア

【西川善司氏】

テクニカルジャーナリスト

【久保田瞬氏】

Mogura VR / 共同代表・編集長

本イベントでは最初に、今回のテーマでもある、3月14日~18日にサンフランシスコで行われたGDC 2016の全体の印象が語られた。

GDC 2016の参加者は27,000人。開催期間中、周囲のホテルではさまざまな商談が行われていたそうだ

日本でも2016年はVR元年と言われているが、今年のGDCではVRに関する講演が数多くあり、イベント全体が熱気に包まれていたそうだ。

久保田氏は、2016年にさまざまなVRデバイスが登場するが、それらをこれからどう活用していくかという、次の段階にすでに進んでいると述べた。

一方、渡部氏は、大学のチームがパラグライダーのデモを行うなど、VR業界以外にもアカデミックなところも参加している、その空気感がよかったと語った。

続いて、GDC 2016を取材した5名が、それぞれ気になった点を2つずつピックアップして解説した。

新氏は、今回のGDCで2つの問題点に気づいたと話す。その1つがVRコントローラーの課題だ。実際に「ADR1FT」などをプレイし、確かに面白いと感じたのだが、実は3D酔いをしてしまったそうだ。

コントローラー以外の、例えば「Bullet Train」のワープ方式や移動範囲を制限するJob Simulator式でも、同じように3D酔いが発生するらしい

新氏は「どんなゲームでも酔わないという、解決策はまだない」というのが、GDCへ行った1つの発見だと述べた。

そしてもう1つの問題点として、「手の問題」を挙げた。多くの物の中から特定の1つを取り出すなど、VRの世界でも、手には繊細な動きが求められる。それを完全に再現するのは難しい。

ただ、その解決策として新氏はGDC 2016に出展されていた2つのゲームを紹介した。

脱出ゲームの「I Expect You To Die」では手自体を消す、ガンシューティングの「Bullet Train」では、腕のみFPS(フレームレート)を落とすなど、手の動きが過度に反映されてしまう問題を、ある種の「ごまかし」で問題を解決しているという

これらの解決策を、新氏は自分たちのチームにフィードバックするという。

次の話題では、渡部氏が注目作として、「ILMxLAB」が『スター・ウォーズ』を題材に制作したVRコンテンツ『TRIALS ON TATOOINE』を挙げた。

ILMxLAB: Join the Force!

VRを使い、『スター・ウォーズ』の世界を体験できる。VR作品には珍しく、遠景が遠くまで見えるのが特徴だ。

西川氏もこのコンテンツをプレイしたとのことで、そのときの感想を「ゲームではないため、VR体験はそれほどでもないが、没入型コンテンツとしてPRに使える」と述べていた。

さらに渡部氏が挙げたもう1つの注目作は、ゲームではなく、3Dオーディオだった。

VR対応のアクションゲーム「Adventure Time」で使用されたBGMが紹介された

普通のステレオだと左右からの音響が中心だが、この「Adventure Time」では、それに縦方向の音響という要素もミックスされているそうだ。

渡部氏は、手軽に3Dオーディオを作るツールとして、「Oculus Audio SDK」の紹介も行った

次に久保田氏が登壇。彼が注目したのは、実写の世界を歩くことができる『realities.io』だ。

画像内の右にある写真は、久保田氏がVR空間の廃墟内で、壊れているTVをのぞき込んでいるところ。高精細な写真を張り合わせた、リアルな3D空間でのVR体験ができる

VR空間を作るのは、現在でも時間と手間が掛かる。しかし、久保田氏は「より簡単に作れる、ミドルウェアなツールが、これから登場するのではないか」と語った。

さらに久保田氏は、「VRを利用したネットワーキング」にも注目。

VRイベント以外に、VRに取り組むスタートアップのためのシェアオフィスなど、VRを制作する環境も整いつつある

「Kaleidoscope」は、世界中のVR技術者をつなげるネットワーキングだ。プログラマーやグラフィッカーといった、足りないところを世界中からリモートで手を貸すことができるという

また西川氏はGDC 2016の振り返りとして、すでにWebで公開されている自身の執筆した記事を紹介。その内容をもって、注目している点とした。

中でも、計4基のカメラを搭載し、VRどころか、AR(Argumented Reality)やMR(Mixed Reality)のHMDにも対応した『Sulon Q』や音のVR体験といえる『Nx』を西川氏はピックアップ。

さらにGDCでの発表の中で特に驚いた出来事として、「PlayStation VR」の価格が思いのほか安かったことを強調した。

ほかにもVRのベンチマークソフトウェア『VRScore』を紹介。左右の映像のホストPCからHMDまでの遅延時間なども測定できるという。

西川氏の注目点は2つ以上となってしまったが、それほどVR向けのコンテンツが豊富だったといえるだろう。

広田氏は、西川氏と同じく『Sulon Q』と、PlayStation VRを1人が装着し、コントローラーをもった4人といっしょに遊べる『The PlayRoom VR』を注目のコンテンツとして挙げた

PlayStation VRの値段は高いか? 安いか?

報告会の最後に、全員が気になるであろう、PlayStation VRの価格についての話題が語られた。

PlayStation VRの日本での販売価格は44,980円。別売りのPlayStation Camera(約5,000円程度)が必要なため、総額で50,000円ほど掛かる

新氏は、PlayStation VRの画面の綺麗さに触れつつ「50,000円は高いといえば高く、安いといえば安い」と、言いよどんだ。また、「値段より量産がネックではないか」という疑問を投げ掛けた。

渡部氏は、「シネマティックモードを使えば、TVなしでもいろいろと遊べる」と述べ、さらに「10万円未満でTVなしのVR環境がそろうのは、お得ではないか」と付け加えた。

一方で西川氏は、PlayStation VRのみでパーソナルモニターとして使えるようにできないかと、自身の意見を述べた。

久保田氏もシネマティックモードが非常にきれいだったことを述べ、「価格も安いと感じているが、それにはPlayStation VRを体験することが必要だ」と語った。

総じて、体験した有識者の方は安いと感じているのが分かった。また、参加者にも質問を投げ掛けたところ、多数の方が「購入する」と答えていた。

第2部:北米VR/ARスタートアップ企業から見えるVRの未来

登壇者

【國光宏尚氏】

gumi代表取締役の國光宏尚氏

続く第2セッションでは、gumiの代表取締役を務める國光宏尚氏が登壇。これから広がりを見せるVR業界に向けて、熱いトークが行われた。

最初に國光氏は、VRとARのこれからの市場予想を行い、「間違いなくVRの方が大きくなる」と話した。

そして「どこのリサーチでも、VRの方が大きくなると予想されている。VRは、ARやその先のMRに到達するための、体験的な入口ととらえられている」と述べた。

「PCでインターネットができ、今はモバイルでもできている。それがVR、AR、MRとできるようになる」と、国光氏は語る

國光氏は、今あるスマートフォンの欠点として、いちいちポケットから取り出し、アプリを起動させるのが手間だと話す。

VRやAR、MRは、その手間をとりのぞき、自分の視力とインターネットをつなげるかたちになるという。

今のVRは目の周りを隠すのが欠点だが、そう遠くない未来、目自体に画像を照射するものも出てくるそうだ。國光氏は、ARは3~5年後、MRはその後の5~10年後にメジャーになると予想する。

そしてVRやARの時代になったとして、そこでフォーカスされるのは、どのようなコンテンツが流行するかだ。國光氏は、「今と変わらず、コミュニケーション、ゲーム、コマース、生産性ツールだ」と話す。

iPhoneが登場して市場の中心がPCからモバイルに移ったように、今度はモバイルでやってきたことが、VRやARに移る時代になる。そうなったとき、その新しいインターフェースに、いち早く最適化したところが勝ち残ると、國光氏は語った。

VR、AR時代が到来したときの2つの戦い

それでは、実際にVR、ARの時代になったさい、どのようなことが起こるのか? 國光氏は、今は2007年のiPhoneが登場する前に似ていると話す。

國光氏は「VRやARは、iOSやAndroidでは動かない。CPUからセンサー、バッテリーにいたるまで、作り直すことになる」と話し、「iPhoneが登場し、モバイル時代になったときと同じことが起こる」と続けた。

そして、VR、AR向けにハードレイヤーからエコシステムレイヤーまですべて作り直すのを第1弾の戦いとし、第2弾はVR、ARで何ができるか、という戦いになると語る。

第2弾は、FacebookやLINEなど、ソフトウェアでの戦いだが、その前段階であるハードレイヤーなどの戦いは、すでに始まっているという。

國光氏が示したVR業界図。画像の下段がソニーなどのインフラメーカー、中段がツール、上段がソフトウェアのメーカー。すでにこれだけの数のメーカーが、VR業界でしのぎを削っている

VR業界でホットなところとして國光氏が挙げた「Jaunt」。VR映像の制作に掛かる作業を、すべて自社のみで行っている

VRゲーム業界の行く末

VR業界にはチャンスが多いと話す國光氏。ではゲーム業界はどうなのか。

VRゲームでの最大の欠点は、國光氏も述べていたことだが、絶望的に3D酔いすることだ。ただ、それは「今までのゲーム」のやり方をVRでそのまま行っているのが原因だという。

モバイルのときも最初は家庭用タイトルをそのまま移植したが、ほとんど流行らなかった。

そうこうしているうちに、スマートフォンならではの遊び方を考える人が現れ、モバイルにフィットした新たなゲームが登場した事実がある。

例えば、家庭用ゲームでは1回のプレイで数十分を掛けるが、スマホゲームでは数分で満足させなければならない。

このように國光氏は、ゲームもVRやARという新たなプラットフォームで再定義されると話す。

そして特に重要な点として、VRならではの体験、VRらしさをどう作るかに掛かっていると述べた。

國光氏がGDCで気になったVRメーカー。ゲーム以外にも、ソーシャルプラットフォームや動画配信、解析ツールなど、さまざまなVRコンテンツが誕生している

國光氏は、日本のコミュニティは世界から取り残されるのが多いと話す。

VRの波に乗るためには、国境を越えてつながるのが大事だと述べ、世界と日本のVR技術者たちが手を組める場を作りたいという、未来を見すえた意気込みを語った。

次々と新たな技術が展開されていくVRは、さまざまな業界におけるチャンスともいえる。その波に乗るのはどこなのか。VRの未来から、これからも目が離せない。