【法林岳之のFall in place】第17回: なぜ、今、「小さいiPhone」なのか

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Appleは3月22日、Special Eventを開催し、「iPhone SE」「iPad Pro 9.7」などを発表した。iPhone SEは発表前から各方面で噂されていたとおり、iPhone 5sと同じ4インチのディスプレイを搭載したコンパクトボディのiPhoneとして開発され、これまでのiPhone 6s/6s Plusと併売される形となった。

ラインアップに追加されるiPhone SE

iPhoneは2007年の初代モデル以降、ディスプレイやSoC(CPU)、ストレージなどの容量を向上させながら、着実に進化を遂げてきたが、今回はiPhone 6s/6s Plusの発表からわずか半年で、2年以上前の旧モデルのデザインを活かしたバリエーションモデルを追加することになる。

アップルは今、なぜ「小さいiPhone」をラインアップに加えるのだろうか。

新しくラインナップに加わったiPhone SE

根強い人気を持つコンパクトボディ

改めて説明するまでもないが、現在、Apple及び各携帯電話事業者から販売されているiPhoneは、2015年9月に発売された「iPhone 6s」と「iPhone 6s Plus」であり、基本的に現在の主力モデルに位置付けられている。

このiPhone 6s/6s Plusは2014年9月発売のiPhone 6/6 Plusをベースにした『セカンドモデル』になるが、iPhone 6sは4.7インチ、iPhone 6s Plusは5.5インチのディスプレイを搭載する。

iPhone 6s(左)とiPhone 6s Plus(右)

iPhoneはアメリカのみで販売された初代モデルから2008年発売の「iPhone 3G」、2009年発売の「iPhone 3GS」、2010年発売の「iPhone 4」、2011年発売の「iPhone 4s」まで、3.5インチのディスプレイを搭載してきた。

2012年発売の「iPhone 5」と2013年発売の「iPhone 5s」では4インチのディスプレイを搭載したが、2014年発売のiPhone 6/6 Plusからは前述のように、4.7インチと5.5インチのディスプレイを搭載した2モデル構成を展開している。

同じ時期に販売されていたAndroidスマートフォンに比べ、大画面化への取り組みはややスローペースで、iPhone 6 PlusとiPhone 6s Plusでようやく並べられる環境が整ったという見方もできる。

しかし、2014年にiPhone 6/6 Plusで4.7インチと5.5インチの2モデル構成に切り替えたのにも関わらず、どうして、今回、4インチのディスプレイを搭載したiPhone SEをリリースすることになったのだろうか。

4インチディスプレイを搭載するiPhone SEのカラーバリエーションは4種

実は、国内市場だけを見ていると、現在販売されているiPhoneは、iPhone 6s/6s Plusのみと捉えられてしまうことが多いが、実はAppleがApple StoreでSIMフリー版の「iPhone 5s」、ワイモバイルが「iPhone 5s」を販売している。

国と地域によって、やや販売状況が異なるが、Appleは他の国と地域において、新モデル登場後も旧モデルを少し安価に継続販売してきたことがある。

中でもiPhone 5sは根強い人気を保っており、Appleによれば、昨年、約3,000万台ものiPhone 5sをはじめとしたコンパクトサイズのiPhoneを販売してきたという。

ただ、これは全世界的にコンパクトなボディのモデルが人気を得ているかというと、そういうわけではない。以前にもこの連載で説明したことがあるが、グローバル市場全体で見ると、サムスンのGALAXY Noteシリーズの登場以降、大画面モデルが高い人気を集め、ここ数年は大画面と高解像度化がスマートフォンの最新トレンドとして取り上げられてきた。

国内では今ひとつ人気を得られなかったが、国と地域によってはタブレットとの中間サイズに位置付けられる6インチクラスのディスプレイを搭載した「ファブレット(Phablet)」の市場も確立されている。

一般的に、大画面のディスプレイを搭載したモデルは動画などを見やすいことが選択の理由とされているが、元々、欧米市場は文字入力時のソフトウェアキーボードがQWERTY配列であるため、両手で挟むように端末を持って入力することが多く、ソフトウェアキーボードも大きくなる大画面ディスプレイを搭載したモデルの方が入力しやすいという事情がある。

これに対し、日本はケータイ時代のマルチタップによるテンキー入力をはじめ、フリック入力などが一般的なため、片手持ちが多く、ボディ幅が重要視され、コンパクトなモデルも堅実に売れるという状況になっている。

たとえば、XperiaやAQUOSといったAndroidスマートフォンの人気シリーズには、各携帯電話会社がフラッグシップとなるモデルに5インチ以上のディスプレイを搭載したモデルを採用する一方、5インチ以下のディスプレイを搭載したコンパクトなモデルをラインアップに加えているのはそのためだ。

iPhone 5sのサイズにiPhone 6sを凝縮

iPhoneに限らず、Androidスマートフォンでもコンパクトなボディのモデルが根強い人気を確保していることはわかるが、それならば、AppleはiPhone 5sを継続販売するという選択肢も考えられたはずだ。

現に、今年3月から国内ではワイモバイルもiPhone 5sの販売を開始し、発売前から少し話題になっていたくらいで、Apple自身もiPhone SE発表直前まで、iPhone 5sをAppleStoreで販売していた。

にも関わらず、ほぼ同じサイズで、同じデザインのiPhone SEをリリースしたのは、どういう意味なのだろうか。

今回のiPhone SEを従来のiPhone 5sと比較してみると、ボディサイズは重量が1g違うだけで、その他はまったく同じだ。アクセサリーなども同じものがそのまま流用できると考えていいだろう。

iPhone 5sは発表直前までAppleStoreでも販売されていた

しかし、内部的なスペックはSoC(CPU)にA9チップとM9モーションコプロセッサを搭載し、12Mピクセルカメラを搭載するなど、iPhone 6sとほぼ同等のものを実現する。

形としてはiPhone 5sの筐体に最新のiPhone 6sのハードウェアを凝縮したものとなっている。

そのため、内部的な機能はiPhone 6s/6s Plusと同等になるが、iPhone 5sと比較すると、通信関係の仕様が大幅に強化されている。

たとえば、iPhone 5sはLTEに対応していたが、iPhone SEはiPhone 6s/6s Plusと同じように、TD-LTEにも対応しているため、auのWiMAX 2+、ソフトバンクのAXGPでも利用できることになる。

ただし、複数の周波数帯域を束ねて高速化を図る「キャリアアグリゲーション」には対応していないため、受信時の最大通信速度は150Mbpsまでとなっている。

昨年、iPhone 6/6s/6 Plus/6s PlusがLTEネットワークで音声通話を実現する「VoLTE」に対応したが、iPhone SEも対応しており、同一携帯電話事業者の対応機種間に限られるものの、高音質通話が利用できる。

Wi-FiについてもiPhone 6s/6s Plusから対応するIEEE 802.11acにも対応する。

そして、もう1つ注目されるのがNFCへの対応だろう。

NFCは非接触ICによる近距離無線通信技術で、iPhone 6/6 Plusで初搭載され、昨年のiPhone 6s/6s Plusにも搭載されている。

NFCは今のところ、デジタルカメラやヘッドホンなどをBluetoothで接続するときにペアリングなどに利用されている程度だが、仕組みとしては国内で利用されているFeliCaによるおサイフケータイと同じようなことも実現できるため、グローバル市場ではモバイル決済サービスに利用されている。

AppleもアメリカなどでNFCを利用した決済サービス「ApplePay」を展開しており、今後の成長分野の1つとして期待を寄せているが、今のところ、対応機種はiPhone 6/6s/6 Plus/6s Plusに限られている。

今後、ApplePayのビジネスを世界各国に拡大していくのであれば、NFC対応のiPhoneをもっと増やしていく必要がある。

だからこそ、根強い人気を持つiPhone 5sとほぼ同じデザインのモデルをNFCに対応させ、16GBモデルで399ドル、64GBモデルで499ドルという買いやすい価格帯に設定することで、旧機種を順次、リプレイスしていきたいと考えたのかもしれない。

もっとも、国内向けの価格は16GBモデルで52,800円、64GBモデルで64,800円に設定されたため、最近の為替レート(1ドル110円台前半で推移)から考えると、1ドル130円相当という割高な設定になってしまった感は否めない。

iPhone SEについてはすでにNTTドコモ、au、ソフトバンクが取り扱いを発表しており、AppleもApple Storeを通じて、SIMフリー版を販売する。

予約は3月24日から受付を開始し、3月31日から店頭での販売も開始される。iPhone 6s/6s Plusが登場してから半年が経過した今、iPhone SEがどのように受け入れられるのか、国内市場での反応が楽しみだ。