[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第6回: スマホはバーチャルリアリティの導火線になるか?

Eye

どこかで見たような景色ってたまにあります。デジャヴー。この道はいつか来た道。昨日までそこにあったものがなくなってしまうと、そこに何があったかという記憶の欠片をなくしてしまうこともあります。人間の記憶や認識能力は極めて曖昧、ゆえに人の想い出は時に美化されるのです。

20年の時を経た現代のVR

人間の脳は高度な処理能力を持っているのは誰しもが認めることだろうが、一方で脳の認知機能や記憶機能をだますこともできるという。

身近な例でいえば駅で電車に乗り込み、奥の窓ガラスの扉に立つ、ちょうど向かいのホームにも逆方向への電車がゆっくりと動き出したとき、自分の電車が動いている「錯覚」に囚われたことはないでしょうか。

「おっととっと・・・」という感じのアレです。

自分は不動なのだが、反対側の電車が動くことで、あたかも自分の乗っている電車が動き出したかのような感覚です。これも脳は簡単にだますことができるという事例。

ちなみに、今から20年くらい前のセガでは、そのような研究を業務用のゲームでよくやっていました。スペースハリアーをソフトに使った「R360」や、ジョイポリスに設置されたライドマシン「AS-1」がそれです。

油圧のサスペンションを使用した大型のマシンで、縦横左右の動きを取り入れることで疑似空間を演出していました。原始的ですが、いちばんわかりやすいVR体験といってもいいでしょう。

ちなみに、当時はバーチャルリアリティという言葉はあまりポピュラーありませんでしたが、ウィリアム・バロウズやティモシー・リアリーらが提唱していたように、ビデオドラッグやマシンによって精神安定を求めるようなシンクロエナジャイザーなどを総称してバーチャルリアリティと呼んでいました。

あれから約20年の時を経て、そのバーチャルリアリティが現実のものになってきました。非現実が現実になる時代を届けることができるのは楽しいことです。

先日、オキュラス社の御厚意で、Oculus RiftとTouchを体験をしました。体験したコンテンツは、「ToyBox(おもちゃ箱)」、立体像家物制作ソフト「Medium(ミディアム)」、Unrealエンジン4を開発したEpic Gamesの「BULLET TRAIN」(バレットトレイン)の4つ。

どれも完成度は素晴らしく、ヘッドセット(以下、HMD)をしていることを忘れてしまうほどの完成度でした。

その体験から1週間もたたないうちに、HTC Vive(以下、Vive)を体験しました。

ご存じの方も多いと思いますが、台湾のスマートフォンメーカーHTCと、PCオンラインゲームのダウンロードサイトSteamの共同開発によるHMDがViveです。

Viveで体験したソフトは3つ。最初のコンテンツはチュートリアルを兼ねたもので「Controller Intro」。コントローラーを動かし風船を膨らましたり叩いたりすることができるもの。

次は海中散歩を楽しむ「theBlu: Encounter」。小魚やエイと戯れていると大きなクジラが目の前を横切ります。クジラの目の動きや尾びれの動きなどのモーションは滑らかでコンテンツクオリティの高さを感じさせるものがあります。

最後はコミカルなアクション系コンテンツ「Job Simulator」。あなたが会社のオフィスで今までできなかったことVR空間で好き放題やることができます。オフィスの引き出しをあけたり、コーヒーをいれたり、隣のブースにモノを投げたりというオフォス暴れん坊プレイが可能です。

この体験と2月26日に開催した黒川塾33にて「バーチャルリアリティの未来へ」と称したトークセッションを行うことができました。このセッション自体は今年のVRトレンドを感じる大変有意義なものでした。

  • VR市場が目指す未来とは!「黒川塾(三十三)」をレポートはこちら

VRを取り巻く現状

これらのVR体験と黒川塾のトークッセッションを終えて私が感じたことは3つあります。

1つは、ハコスコ藤井さん(黒川塾の登壇ゲスト)のコメントですが、「VRは出始めは関心も高く、宣伝販促用などにお金が投下されていましたが、すでに1周回ってしまった感がある。つまり新鮮さにかけるようになってきて、効果とコストの兼ね合いが重要視されるようになってきた」ということです。

確かに、昨年の初めごろは大手広告代理店や制作会社が、VRコンテンツの制作に注力をしているという話をよく聞きました。しかし、今はどうでしょうか。やや、停滞気味? もしくはデバイスが出そろうまでの様子見という印象を受けています。

次は、「初めての体験する人のためにもいいVR体験を演出しないといけない」という点です。これはソニーコンピュータエンタテインメントの吉田さんのコメントですが、VRが普及するためには、多くの人によりよいVR体験を提供しなければ、広がらないいというものです。

最初に観たVR体験が粗悪でVR酔いなどを併発するものだと2度めの体験は難しい。VRの作り手側はその点をよく踏まえてクオリティの高いものを創造しなければいけないということです。

そして3つ目ですが、それはスマホの位置づけです。

スマホは非常に簡易かつ便利なものとして我々の生活の中に溶け込んでいます。そのスマホは間違いなくVRツールの1つになると思います。よい事例がハコスコであり、GoogleのCardboard、Gear VRもその1つです。

しかし、2つめに挙げたよりよいVR体験をいかに演出できるかというが課題です。1回体験すればそれでもういいというものではなく、何度も体験して新しい世界観を味わえるような体験がスマホでも演出できるようしなければいけません。

貧弱で品質の低いVRを提供してしまうおそれを秘めているのが、スマホVRの内包している危険性です。現在、日本のVRクリエイティブに関してはgumi、コロプラ、GREEなどがファンドやコンソーシアムを組成して積極的に取り組んでいます。おそらく、彼らの主戦場はスマホと位置づけられていることでしょう。新しい時代を作ってきた新しいプレイヤーならではコンテンツ開発と演出に期待が寄せられます。

だまされるならば、気持ちよくだまされたいということです。