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【西川善司のモバイルテックアラカルト】第13回: スマホで楽しむ簡易VRへのいざない(前編)

今回と次回で、「360°全天全周映像」の楽しみ方の基本情報をご紹介したいと思います。360°全天全周映像は、話題にはなっているものの、さすがは黎明期。ちゃんと楽しむためにはおまじないにも似た面倒な手順が必要なので、これから挑戦したいと考えている人には参考になるかと思います。

現時点での全天全周撮影カメラ製品としての入門機かつ標準機となっているリコー「THETA」シリーズとは?

昨年、この連載で、スマートフォンをはめ込んで使う簡易VR-HMDのお話をしました。そして、この簡易VR-HMDは、Oculus RiftやPlayStation VRのようなハイエンドVR-HMDほどのリッチな体験はできないもののの、「ちょっと見て、短時間でワッと感動できる」コンテンツである「360°全天全周映像」との相性がよいのではないか……という話もしました。

実際、そう書いているうちに、ボクも自分でそうした映像を撮影したり、自分で視聴して見たくなったので、機材を自腹でそろえてみることにしたのです。

今年の1月にアメリカのラスベガスで開催された家電ショーCES2016では、さまざまな360°撮影カメラの新製品が発表されていましたが、現在、日本で普通に量販店で購入できる360°撮影カメラはリコーの「THETA」シリーズです。

リコーTHETA S(左)とTHETA m15(右の4製品)

昨年秋に撮影画質がフルHD相当に向上した「THETA S」が新発売になったので、今から購入するのであればそちらがおすすめです。ボクもTHETA Sを購入しました。ちなみに、1万円ほど安価な下位モデルには「THETA m15」というものがあります。

CES2016では、数え切れないほどのたくさんの360°カメラが出展されていた。これは撮影レンズが1つの360°カメラ「360FLY」。4K撮影モデルが2016年内に発売予定

ボディ側面、四辺に2個ずつカメラを配した3D撮影が可能な360°カメラ「VUZE CAMERA」

あの大手カメラメーカーが発表した4K撮影対応の360°カメラ「KeyMission 360」

基本的な使い方はここでは深く掘り下げませんが、THETA Sでは、360°全天全周の動画と静止画を撮影することができます。特殊なデザインになっていることもあり、液晶モニタはなく、本体だけではどんな映像が撮影されているのかがわかりません。ただ、ピント合わせという概念はないですし、だいたい水平に近い感じで持って撮影すれば多くの場合、ちゃんと撮れてます(笑)。難しくはありません。

THETA Sには三脚を装着できるネジ穴があるので、手持ち撮りならば自撮り棒や一脚に取り付けて撮影するといいと思います。飲み会のような場所(テーブルとか)で撮影するにはTHETA Sを立てて撮影するためにミニ三脚(卓上三脚)が活躍することでしょう。

数百円で売っているミニ三脚にTHETA Sを取り付けとこんな感じに。会議の議事録ビデオを録る際にもこれでいけそう?

THETA Sでは、動画/写真は内蔵メモリに記録されます。そう、THETA Sは今どき珍しい、SDカードへの記録には対応していないデジカメということになります。なので、内蔵メモリがいっぱいになると、撮影した写真や動画をパソコンやスマホに移してやらないと以降、撮影ができなくなる点に注意したいものです。ちなみに、THETA S本体だけでは内蔵メモリーの写真や動画を削除することはできません。

YouTubeやFacebookに「360°全天全周映像」の投稿が可能になったのを知ってますか?

THETA Sで撮影した写真や動画は、専用アプリを使ってスマホ(iOS端末やAndroid端末)で再生することができますが、この専用アプリを使っている範疇では、THETA Sユーザー以外に、360°全天全周映像の楽しさを伝えられません。

せっかく、まだまだ珍しい存在の360°撮影カメラ、THETA Sですから、「こんなこともできるんだぜ!」と、持っていない人に自慢をしたいですよね。

ただ、THETA Sを持っていない人に、THETA Sの専用アプリをインストールさせるのは敷居が高いです。家族ならばまだしも、友人との会合や飲み会の席とかで「360°全天全周映像があるんだけど見てみて。で、それにはまず、専用アプリをインストールして……」となってしまっては「あ、また今度ね」となるのが関の山です。

しかし、ご安心を。今やネットへの動画投稿は空前のブームです。業界的に、360°全天全周映像なんていう、こんな面白そうな新メディアを放っておくはずもなく、YouTubeは2015年3月から、Facebookも2015年9月から、「360°全天全周映像の投稿」に対応してきたのです。

「対応」というのは具体的にはどういう意味かと気になる人も多いと思います。これは簡単にいえば、「THETA Sで撮影した360°全天全周映像をYouTubeやFacebookに投稿することができ、さらにそれをTHETA S専用アプリで見たときとほぼ同等の、好きな方向の視界をインタラクティブに見られるようになった」……ということです。見る際は、Webブラウザからでもいいですし、YouTubeやFacebookがそれぞれ独自提供している専用アプリを使って見ることもできます。

「360°全天全周映像を見せたいからTHETA S専用アプリをインストールしてよ」とはいい出しにくくても、YouTubeアプリやFacebookアプリであれば「YouTubeアプリやFacebookアプリは、インストールしてあるよね?」と切り出せます。

しかし、その「360°全天全周映像のYouTubeやFacebookへの投稿(アップロード)」にはちょっとしたコツがいるのです。かくいうボクも数回、試行錯誤してできたという感じなので、その手順を自分の備忘録を兼ねて記していきたいと思います。

ステップ 1: THETA S純正アプリを使って球体映像からパノラマ映像に変換をする

まず、大前提なのですが、YouTubeやFacebookへのアップロードを実践するためにはパソコンが必要です。スマホだけでは困難です。ただ、パソコン自体のスペックはそれほど高いものでなくてもかまいません。普段、メールやWebを見ているパソコンでじゅうぶんです。

そのパソコンに、THETA SをUSB接続するなどして撮影済みの全天全周の動画をコピーします。THETA Sの撮り下ろし動画は、下の写真のように、画面の中央が下(地面側)で、画面の両端が天頂側の、いわば球体映像を真っ二つに割って開いたような非連続な映像です。この動画をYouTubeやFacebookにアップしても、このまんまの映像がアップされるだけでなんの面白味もありません。

THETA Sで撮影した映像は、そのままではこんな感じで記録されている

変換前のTHETA S映像

そこで、この「THETA S撮り下ろしの球体映像」を、まずはパノラマ映像に変換してやる必要があります。これは360°撮影カメラで撮影した映像の「スティッチ(縫い合わせ)」工程と呼ばれるものです。近未来的にはこうした処理系をもカメラ側でハードウェアで実践できるようになるといわれています。

この「球体映像→パノラマ映像」の変換にはリコーが公式にリリースしている純正アプリを用いる必要があります。ダウンロード先はTHETA Sの公式ダウンロードサイトで、「パソコン用アプリケーション」というものを使います。

本稿ではWindows版を例にとって解説していきますが、Windows版は「SphericalViewer.exe」という名称になっています。これをダウンロードしてインストールして起動すると以下のような画面が出ます。

アプリ起動直後の画面

複数の動画をドラッグアンドドロップした直後の画面。変換後のファイルはファイル名に「_er」が付加されて保存される

この画面にパノラマ映像に変換したいTHETA S撮り下ろし動画をドラッグアンドドロップしてください。複数まとめての変換にも対応しています。変換は、画像処理ということもあって、けっこうCPUパワーを消費します。処理時間もCPU性能やストレージデバイスの性能、変換対象の動画ファイルサイズの大きさに依存します。

こうして変換されてできるのが、以下のような動画です。

パノラマ映像に変換されるとこんな感じになる

変換後のTHETA S映像

ステップ 2: 360°全天全周映像であることをシステム側に伝えるためにメタデータを仕込む

ここで終わりではありません。これをただアップしただけでは、実はまだ不十分なのです。YouTubeやFacebookのシステム側に「これは全天全周映像なのよ」と知らしめるための「メタデータ」をこの動画に埋め込んでやる必要があります。

このメタデータの埋め込み(Injection)は「Spherical Metadata Injector」(SMI)というアプリで行います。これはYouTubeのヘルプページに、「360 Video Metadata アプリ」としてWindows用とMac用の両方が紹介されているので、ここからダウンロードしてください。

SMIアプリを起動すると以下のような画面が出ます。

「Spherical Metadata Injector」(SMI)アプリの起動画面。メタデータが埋め込まれた出力ファイルはファイル名に「_injected」が付加されて保存される

このSMIアプリの[Open]ボタンから、先ほどパノラマ映像に変換したファイルを開き、SMIアプリウィンドウ上の「Spherical」をチェックして[Save as]ボタンを使って保存します。ちなみに、この「Spherical」のチェックは、全天全周映像であることのメタデータの埋め込み指定を意味しています。

SMIアプリからの映像保存は、映像の再エンコード処理を行うわけではありませんのでCPUパワーはそれほど消費しませんが、動画をまるまる保存し直しになるのでそれなりの時間はかかります。

また、1つ注意点があります。SMIアプリ上の「3D Top-bottom」をチェックしてはいけません。これは3D立体視対応のメタデータの埋め込みを指示するもので、THETA Sで撮影された映像は2D映像なので、チェックしても意味がないどころか、YouTubeやFacebookのシステム側の誤動作を誘発する可能性があります。まぁ、混乱を避けるためにもチェックはしないでおきましょう。

このSMIアプリで保存された動画は、単体でメディアプレイヤーで再生しても、もともとのSMIアプリで処理する前のパノラマ映像と何ら変わりはありません。ただし、メタデータが盛り込まれた分、ほんの少しだけファイルサイズが大きくなっているはずです。

これで準備完了です。

ステップ 3: YouTubeやFacebookに投稿する

あとは、SMIアプリによって出力されたファイル名末尾に「_injected」が付加されたメタデータ付きの動画ファイルをYouTubeやFacebookに普段どおり動画をアップするだけでOKです。360°撮影の全天全周映像専用のアップロードサイトがあるわけではありません。

YouTubeでは、アップされた直後は「パノラマにはなっているものの、視点操作などができない普通の動画」として公開されてしまいます。しかし、あせることなかれ。数十分から1時間くらい経つと、全天全周映像としての公開に予告なくすげ替わります。これは、システム側(サーバー側)で、さらに映像の変換処理に時間がかかるためです。なので、YouTubeアップ直後に「あれ? 公開された動画が普通の動画になってる」と思ってもあせらないでください。しばらく待ちましょう。

Facebookでは、アップロード自体が完了した直後は、なんの反応もありませんが、しばらくするとタイムライン表示などに出現するようになります。こちらも数十分から1時間はまたされます。

YouTubeでの再生の様子。左上に十字のゲームパッドのようなものが出現したらそれが全天全周映像の明かし

Facebookでの再生時の様子。タイムラインにも投稿できるので360°映像ブログみたいなこともできる

筆者がYouTubeにアップした全天全周映像。ラスベガスで開催された家電ショウCESのブース内を歩いている様子

晴れて全天全周映像として公開されると、Webプラウザから当該YouTube動画やFacebook動画を再生すると、キー操作やマウス操作で任意の方向の情景を見ることができます。

YouTubeではChrome、Firefox、Internet Explorer、OperaといったWebブラウザに対応しています。FacebookではChrome、Firefox、Operaに対応していますが、SafariとInternet Explorerには対応していません。

いちばん、直観的に見られ、なおかつ「へー、すごいね」と感心されるのは、スマホ上のYouTubeアプリ、Facebookアプリで直接見る方法です。キーボードやマウス操作も不要で、スマホを上下左右に動かすだけでスマホを向けた方向の映像がリアルタイムに見られます。

前半がYouTubeアプリ、後半がFacebookアプリで再生している様子。スマホのジャイロレスポンスにリアルタイム連動して、スマホを向けた方向の映像が見えているのがわかる。SNSで、全天全周映像が見られるようになったというのはなかなか衝撃的だ

おわりに~同窓会でヒーローになった西川善司(笑)

ボクは、このTHETA Sを、小規模な同窓会に持っていったんです。そして、テーブルの真ん中においてしばらく撮影していたんです。

参加メンツは、ほぼ全員がそうしたITガジェットに詳しくない人たちだったので「ふうーん」と、そんなに関心を示されなかったのですが、後日、このときの全天全周映像をFacebookの同窓会ページにアップしたところ、同窓会に参加した人たちからは「すごい」と驚かれ、参加できなかった人たちからは「みんなの楽しそうな雰囲気が伝わってくる」「まるで中継放送を見ているみたいで臨場感がすごい」と感心されました。

みなさんも、ぜひ、THETA Sで全天全周映像デビューしてみてください。

次回は、この全天全周映像を、わずか2,000円~3,000円で販売されている格安VR-HMDで見て楽しむためのコツを語ることにします。

お楽しみに!