[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第46回: TGS2017に見たエンタテインメントの良心とは

9月中旬のこと、神奈川県大磯町の2つの中学校で、食品製造業者の手による配達弁当方式の給食に、虫、毛髪、木片などの異物混入による食べ残しが問題になった。おそらく味や鮮度(温度も含む)状態などもいうに及ばないクオリティだったに違いない。この問題は学校から町議会へ、そして新聞やテレビメディアに訴求される事態となった。すると9月の下旬には、この食品製造業者からはお詫びの文書が掲載されたが、実態としてはやや反論めいた書類が弁当の供給先に送付されたという。

この程度でいいという不快な姿勢が見え隠れする

今回の件に関して個人的に思うことは、供給側の甘えと発注側と消費者(この場合は給食を食べる生徒など)をバカにしているということ。もっとていねいにいえば、軽んじている結果だと思う。

単純にいえば、「給食を食べるのは、子供でしょ。給食予算は安い。弁当だから冷たくたっていい。早く食べられるんだから、味なんてこんなもんだろ」という、自分たちの提供するサービスへの甘えや驕りが複合的に背後にあるからそのようなことが起こるのだと思う。

どうせ、そんなに文句もいうまいよ、文句があるならばもっと高い弁当にすればいいじゃないかという暗黙の態度の表れだと思う。

すべては、与えられたもののなかでどれだけベストを尽くすかということだと思うが、どうやらこの問題はそれ以前の問題ではないか。そして、これらの件は弁当に限らずあらゆる産業界に見られると思う。

東京ゲームショウにおけるテーマ選定の難しさ

東京ゲームショウ2017(以下、TGS2017)開催から4週間程度しか経過していないが、ずいぶんと時間が経ったような気がする。日々、リリースされるコンテンツや情報の発信がそれをさらに加速させる。

主催者発表によると、TGS2017の動員は「総来場者数 25万4,311人、盛り上がるe-Sportsムーブメント。ゲームビジネスのアジアのハブに」という見出しに集約される。しかし、来場者数は昨年よりも17,000人程度減少。

TGS2016は、VR元年の呼び声も高かったためか、過去最高の入場者をマークした。また、TGS2015は過去2番目の来場者数を記録したが、おそらくそれに関してはスマートフォン系パブリッシャーの大規模な出展と会場ならではのダウンロードアイテムの入手促進を訴求したことが大きな要因だと思う。

しかし、TGS2017ではスマートフォン系パブリッシャーブースへの客付きが異様に悪かったように感じた。

出展内容はスマートフォン系コンテンツかと思いきや、実はVRコンテンツが主だったというブースもある。VRは決定打に欠けるまま、市場が一巡した感が強く、展示は賑わってはいるものの、これぞVRの真骨頂というものには残念ながら巡り会えなかった。

あえていえば、韓国企業が出展していた「ジャイロVR」がアーケードでのVR体験を促進する可能性を秘めていると思ったぐらいだ。

ジャイロVRは、かつてセガでリリースされたR360のようでもあり、バンダイナムコエンターテインメントが満を持して新宿で開園した「VRZONE SHINJUKU」にあってもおかしくないようなものであった。

このような企画モノが日本から生まれなかったのは残念だが、アーケード(ゲームセンター)やVRアクティビティのあるべき姿として、日本のパブリッシャーにも研究してほしい。

運営側CESAと日経BP社の努力の賜物

TGS2017の動員数が下落し、今ひとつ見るべきものが欠いたという主旨を書いたが、とはいえ運営側の努力も評価しておきたい。

果たして、TGS2017にe-Sports系の展示やイベントがなかったら……どうなっていたかということだ。おそらく事務局の発表数字よりも、さらに1万人程度の来場者数が減ったのではないだろうか。

プラス要因としては、e-Sports関係の協議運営団体の統合というニュースがずいぶんと後押しをしたのではないだろうか。会場ではそれらを盛り上げるe-Sports対戦イベントと、その動画配信ポータルのステージイベントなどがあったため、動員の大幅な減少は食い止めることができたような気がする。

加えて、新規のオンライン向けコンテンツを大々的に展示していたDMM GAMESなどの新しい展開もそれに花を添えたのではないだろうか。

しかし、e-Sportsに関しては、法改正と運営、さらには稼げるビジネスジャンルとしての活性化にはやや時間を要するのではないだろうか。その間、いかに市場を枯渇させず認知促進できるかが大きな課題といえよう。

東京ゲームショウ全般の運営に関していえば、おそらく毎年何らかの新しい出展社やコンテンツやデバイスの発表やカミカゼのような出展者が現れるかもしれない。

しかし、それらを期待して待っているわけにもいかない。CESAと日経BPの先を見越した前向きな指針が、さらにユーザーのニーズを前提にしたもの盛り上げていただけることを期待している。

スマホの陰りゆく部屋?

TGS2017を見ると、スマートフォン系パブリッシャーの飽和感とユーザー側の疲弊感を見たような気がする。とはいえ、常にコンスタントに大きな売り上げを構築しているパブリッシャーもある。

パブリッシャーとコンテンツともに両極端が加速しているのか? 数億円単位の開発予算を投じたにも関わらず数ヵ月でクローズすることになったコンテンツもあれば、開発途中だが他社へのIPごとの転売を考えているパブリッシャーも複数社あるという話を聞いた。

加えて、iOSのアップデートによるランキングタブの廃止が、今後の動向に影響を与えるのではないかということだ。ランキングページへ直接行けるタブはなくなったが、完全にランキングがなくなったわけではない。

そこに至るアクションが増えて面倒になっただけのことだが、ユーザー目線からすれば、「何か面白くて、新しいコンテンツないかな?」という探すフェーズでのダイレクト訴求が弱まったと思う。

こちらに関しては、「ランキングをウォッチしているのはパブリシャーくらいだから、一般ユーザーにはあまり影響がない」という声もあるが、果たしてそうだろうか?

ユーザーはいつだってわがままで気分次第だ。新しい何か、ヒットしている何かをランキングから探すというアクションはあると思う。

パブリッシャーのマインドの変化も気がかりだ。おそらく、パブリシッシャー側は自社を取り巻くランキングの上下関係やベンチマークしていたコンテンツの動向を見て、さまざまな宣伝販促施策を打ってきたことだろう。

しかし、それが見えにくくなったことによる弊害はないだろうか。大手のパブリッシャーはランキング観測系のマーケティングツールなどを活用していると思われるが、インディペンデント(個人開発)で行っている人にとっては、ある種の指標が見えにくくなってしまったと思う。

弁当に限らずすべての商品やコンテンツ、サービス、イベントはユーザーありき。常にその視点からブレることなく、真摯な姿勢で市場に臨んでほしいと思う。

さらいえば、ポータルプロバイダーやパブリッシャーの都合ばかりが優先されることは、本来のユーザー視点を見失うことになり、市場を軽んじることにつながり、自らの市場を自らの手で汚しかねない。

デジタル覇権を握るポータルの独善的なポリシーで市場が縮小しないことが重要だ。