【黒川塾51】HTML5ゲームとクラウドゲームでゲームコンテンツはどうなる?

7月18日(火)、黒川塾51が開催された。今回のテーマは「HTML5ゲームとクラウドゲーム市場の未来を語る」。HTML5ゲームとクラウドゲームを採用するプラットフォームが慌ただしく表れている現状と今後を、業界のキーパーソンと紐解いていく。

ゲームコンテンツ界のフィールドはブラウザへ

今回の黒川塾は、楽天による「楽天ゲームズ(R Games)」や、株式会社バンダイナムコエンターテインメントと株式会社ドリコムの共同出資による新会社BXDなどが取り組むHTML5を活用したゲームコンテンツ市場、ヤフー株式会社がHTML5ゲームと同時に展開するクラウドゲーム市場の未来をテーマに開催された。

会場がいつもと異なり、恵比寿ガーデンルームで開催されたのだが、同会場ではこの日、HTML5ゲームとクラウドゲームを提供する新しいゲームプラットフォーム「Yahoo!ゲーム ゲームプラス」の発表会も行われた。

ヤフーにてゲームプラス事業部ビジネスプロデューサーを務める脇康平氏をはじめとした、ゲームコンテンツに携わる5人のゲストによる、「HTML5」と「クラウドゲーム」の2つのキーワード、さらにはその先にあるゲーム業界の未来について語られたセッションの模様をお届けしよう。

黒川塾(五十一)ゲスト

  • 脇康平氏:ヤフービジネスプロデューサー
  • 森下一喜氏:ガンホー・オンライン・エンターテイメント代表取締役社長 CEO
  • 中裕司氏:ゲームクリエイター
  • 藤田一巳氏:コーエーテクモゲームス執行役員
  • 手塚晃司氏:BXD代表取締役社長

左から、黒川氏、脇氏、森下氏、中氏、藤田氏、手塚氏

新たなプラットフォーマーの誕生

まず初めに、発表会を行ったばかりの「Yahoo!ゲーム ゲームプラス」について触れられ、脇氏からサービス誕生の経緯が語られた。

「Yahoo!ゲーム ゲームプラス」は、ブラウザ上でHTML5とクラウド技術を活用したゲームを遊べるサービスだが、もともとブラウザゲームではカジュアルなゲームが多くサービスされている。

ヤフーではこれまでもカジュアルなブラウザゲームは展開しており、多くのユーザーがプレイしていたが、もっとリッチな作品を提供するため、HTML5とクラウドゲームを取り入れたという。

そのコンセプトは「すべてのゲームはWebでやれ!」。

発表会終了後からすぐに利用できる状況で、反響も大きいという。

大きな特徴としては、ダウンロードが必要なくサービス間をシームレスに移動できることや、LINEやFacebookといったSNSでURLを貼るだけですぐに共有でき、共有された側はそのリンクを開けばすぐにゲームを始められることにある。

脇氏によると、これにより集客ができるうえに、新しい遊びが作れることに期待しているとのことだ。

ゲームそのものに触ったことがないユーザーがまだまだいるとし、そのようなユーザーとゲームコンテンツがぶつかることで起きる化学反応はこれから見られるのではと予想する。

「Yahoo!ゲーム ゲームプラス」のように独自のプラットフォームに取り組むのは、バンダイナムコエンターテインメントと株式会社ドリコムにより設立された手塚氏が代表取締役社長を務めるBXDも同様だ。

バンダイナムコエンターテインメントでは、スマホ向けにはネイティブアプリ中心に展開し新しいゲーム体験の提供やゲーム人口の拡大を図ってきた中で、さまざまな制約によりできなかったことが多かったという。

それならばと、制約に縛られず、自分たちの実現したいことができるように、というのがBXD設立のきっかけであったのだ。

ちなみに、ドリコムとパートナーシップを結んだのは、IPの取り扱いに長けていることが理由だそうだ。

技術開発は2年近く続けており、5月に行われた発表会で公開された3タイトルのほかにも、開発が進んでいるとのことで、こちらも今後の展開に注目したいプラットフォームだ。

コーエーテクモゲームスの藤田氏からは、プラットフォームに対する考え方を変えないと、新しいゲームは生まれないのでは、という指摘が飛び出した。

藤田氏は、HTML5ゲームのプラットフォームを自社で展開する一方、スマホ向けゲームでは出遅れるという経験から、上記の考えに至ったという。

ゲームを表現できる環境が整えば、プラットフォームは問わないとし、ヤフーからの熱烈オファーを受け、「Yahoo!ゲーム ゲームプラス」で提供するゲーム開発を進めているとのことだ。

HTML5の可能性

続いて、PCやスマホでオンラインゲームを開発するガンホー・オンライン・エンターテイメントの森下氏が考えるHTML5の可能性へとトークが進行。

森下氏は、ゲーム開発という観点で考えると、HTML5かネイティブか、はたまたプラットフォームは何なのか、ということはあまりこだわっていないという。

HTML5で新しいことが実現する可能性があるとするならば、いろいろ実験をしながらこっそり取り組んでいるという。

ガンホー・オンライン・エンターテイメントといえば『パズル&ドラゴンズ』が真っ先に思い浮かぶが、パズドラを作る前の2011年あたりに、HTML5で作るとどうなるかを検討したことがあるという。

その時は、今現在のパズドラの動きを実現しようとすると無理だと判断したが、HTML5の技術が進歩している中で、以前はネイティブでしかできなかったことがHTML5でできるようになり、新しいものができる可能性はあると見解を述べた。

結局は、自分たちが作りたい面白いものがあり、どういった環境で作るかは後から、というプロセスを辿っているのだ。

また、ゲームクリエイターの中氏は、楽天ゲームズなどすでにサービスされているプラットフォームでHTML5ゲームをプレイしてみると、従来のFLASHゲームとの違いが見出せないと語る。

中氏が考えるHTML5の魅力は、URLを踏めばダイレクトにゲームにアクセスできる点であるという。

そのURLを送れば新しいゲームが現れる、それをまた次の人に送る、というHTML5でないとゲームを誰かが作るべきだと考えており、ダウンロード・インストールの障壁がないメリットを語る。

そのため、脇氏には「Yahoo!ゲーム ゲームプラス」専用の短縮URLを作るべきだというアドバイスを提言。URLをひと目見ただけでゲームだと認識できるものが好ましいという、クリエイターらしい鋭い指摘を述べた。

BXDの手塚氏も中氏と同じ構想を抱いており、ネイティブでできることはネイティブで実現し、LINEで気軽に共有したり、QRコードを読み取ったらいきなりガチャが引けるといった1秒でゲームに入り込める体験はHTML5ならではだという。

これからのゲームはどうなる?

HTML5によってゲーム業界が新しい局面を迎えるにあたり、ゲームのあり方について議論が及んだのだが、藤田氏が危険視するのがユーザーの学習コストだ。

HTML5では前述のとおりURLを送るだけでゲームを開くことが1つの特徴。

そこで現れるゲームが学習コストの高いものだと、ゲームに触れたことがないユーザーにとってはとっつきにくいはずだ。

技術が進歩し、ゲーム体験がリッチになっていくと、学習コストが高くなりがちであることは今後のHTML5ゲームが広まるための課題ではないだろうか。

これを受け、手塚氏は『ポケモンGO』を例に持論を展開。

ポケモンGOは操作はフリックするだけだが、歩いたりポケモンの巣の情報を集めるなど、学習コストが低く、新しいゲームの打ち出し方を体現したタイトルであるという。

それと同じようにHTML5は新しい可能性を秘めており、例えばフィギュアが入力装置を兼ねているなど、スマホの画面外のいろいろなところで発想していくことが、クリエイターとしてそそられる部分であり、ユーザーの新しい体験につながると語った。

クラウドゲームで何が実現できるのか?


セッション後半はクラウドゲームについての話題へ。

今回、「Yahoo!ゲーム ゲームプラス」では、HTML5ゲームと同時に、『ファイナルファンタジーXIII』などのタイトルをクラウドゲームとして提供する。

これの実現には、通信インフラの発展が大きく寄与しているのは想像に難しくない。

しかし、藤田氏によると、ゲームはインタラクティブ(双方向)なコンテンツであり、一緒に遊ぶ人数が多くないと面白くないという側面を持つ。

1人プレイ用のRPGにおいても、ユーザー同士でのゲーム内外でのコミュニケーションがカルチャーとして存在しており、同じタイトルをプレイするユーザーが多いほど作品をより楽しめるという場合が多い。

しかし、いくらインフラが進化したとしても、集まる人数が多いほど負担が大きくなる構造は変わらない。

そのため、潤沢な資本を持つ巨大企業が、一定程度以上の品質でゲームを遊べることを保証しないと、クラウドゲームは提供できないのだという。

また、中氏からはクラウドゲームはゲームのアーカイブに向くのでは、という提案も。

ファミコンミニが大ヒットするなど、レトロゲームへの関心は高く、例えば「中裕司全集」のような映画でいうところのDVDボックス的な活用方法に可能性を見出しているそうだ。

このように、クラウドならではの面白さを生み出せれば、ネイティブゲームとのすみ分けにでき、ゲーム市場の拡大につながるのだろう。

セッションの最後には、プラットフォームを立ち上げるにあたり、「外資のアプリポータルに対するアンチテーゼなのでは」という問いが黒川氏から投げかけられた。

これに対し「Yahoo!ゲーム ゲームプラス」は、例えばAppStoreでは禁止されているシリアルコードは無償のものに関しては許可、βテストも自由にするなど、しばりがないビジネスのしやすいプラットフォームを目指すという。

手塚氏は、従来のプラットフォームで配信するネイティブアプリは今後も続けていくが、そこではできないことをBXDで実現していくのだという。

パブリッシャーがストアに支払う手数料(セッションでは30%とされていた)はあるが、自分たちでやろうとするとそれどころでは済まないのだ。

それでも独自のプラットフォームを仕掛ける心意気には、大いに期待したいところ。2018年春予定のサービスローンチを楽しみにしておこう。

また、森下氏は、30%の手数料はユーザーにとってはまったく関係なく、ユーザーにメリットのあることを提供していけることが重要だとコメントし、セッションを締めくくった。

藤田氏も話すとおり、プラットフォームは関係なく、楽しめるコンテンツがユーザーに届くことが何よりも重要だと感じるセッションであった。