【法林岳之のFall in place】第37回: 「サブブランド」キャリアに対抗するNTTドコモの新施策docomo with

5月24日、NTTドコモは「2017夏 新サービス・新商品発表会」を催し、2017年の夏商戦へ向けた新機種や新サービスなどを発表。中なかでも注目を集めたのが、新しい施策である「docomo with」だ。

毎月1,500円を割り引くdocomo with

「docomo with」とは、新規契約や機種変更で対象となる端末を購入すると、毎月1,500円を永続的に割り引くという施策で、今回はサムスン製「Galaxy Feel SC-04J」と富士通製「arrows Be F-05J」が対象端末として選ばれている。

これまでNTTドコモが打ち出してきた割引施策とは少し方向性が違うが、その施策の狙いはどこにあるのだろうか。

5月24日に開催されたdocomo「2017夏 新サービス・新商品発表会」で発表された「docomo with」

NTTドコモをはじめとする携帯電話各社は、これまでさまざまな形で割引サービスを提供してきた。たとえば、学割やシニア割のように、特定の年代層に対して、月々のデータ通信量を追加したり、割安な料金プランを提供したり、家族で契約する場合に基本使用料を割り引く、2年契約にすれば、基本使用料を半額にするといった内容のものが多かった。

今回、NTTドコモが6月1日からスタートさせたdocomo withは、こうした従来の割引サービスとは少し方向性が異なるものだ。

docomo withでは対象機種を購入した場合、その機種を使い続けている限り、月々の支払いから永続的に毎月1,500円を割り引くという内容になっている。対象機種を購入すること以外の条件としては、従来の「月々サポート割引」の適用が受けられないこと、NTTドコモの契約上の利用機種が購入した対象機種であることが挙げられているが、それらを満たせば、何年でも継続して、毎月1,500円が割り引かれる。

条件の1つに挙げられている「月々サポート割引」は、NTTドコモで新規契約や機種変更に伴って、端末を購入した場合、基本的には24回に渡り、月額1,000~3,000円程度の範囲内で、毎月の利用料金から割り引かれるというもので、auでは「毎月割」、ソフトバンクでは「月月割」として、同様の割引が提供されている。

発表会では代表取締役社長の吉澤和弘氏自らパネルの前に立ち、積極的にアピールをしていた

docomo withではこの月々サポート割引の適用を受けないことを条件に、毎月1,500円が割り引かれるわけだが、一見、得なのか、損なのかが今ひとつわかりにくいかもしれない。

現在、多くの端末で月々サポート割引の金額が2,000円前後に設定されているため、単純に計算すると、33ヵ月以上、対象機種を利用すれば、docomo withの方が得になる。つまり、同じ端末を長く使うユーザーにとっては、メリットの大きい施策といえるわけだ。

docomo withの割引サービスを受けられる料金プランとしては、

  • カケホーダイプラン(月額2,700円)
  • カケホーダイライトプラン(月額1,700円)
  • シンプルプラン(月額980円)

の3つで、いずれかのパケットパックと組み合わせる必要がある。ちなみに、データ通信のみを契約する「データパック」は対象外となっている。

このdocomo withの対象機種として、今回は「Galaxy Feel SC-04J」「arrows Be F-05J」が発表されている。端末の価格としてはドコモオンラインショップによると、Galaxy Feel SC-04Jが36,288円(税込)、arrows Be F-05Jが28,512円と、比較的リーズナブルな設定になっている。支払いは一括払いでも分割払いでもdocomo withの適用を受けることができる。

それぞれの対象機種について、簡単に内容を説明しておくと、Galaxy Feel SC-04Jは約4.7インチのディスプレイを搭載したコンパクトなモデルで、防水やおサイフケータイ、ワンセグなど、日本仕様もとサポートした日本向けモデルとして作り込まれている。

対象機種のサムスン電子製「Galaxy Feel SC-04J」は、防水防じん、おサイフケータイなど、日本仕様をコンパクトなボディにまとめ上げたモデル

arrows Be F-05Jは、MVNO各社やオープン市場(SIMフリー市場)向けに供給されているarrows M03とほぼ同じモデルで、約5.0インチのHD対応液晶ディスプレイを搭載し、防水、防じん、耐衝撃、おサイフケータイ、ワンセグなど、必要な機能をひととおり搭載している。

対象機種の富士通製「arrows Be F-05J」は、SIMフリー端末として販売されている「arrows M03」をベースに開発されたモデル

どちらのモデルも各端末メーカーのフラッグシップモデルと比較すると、ややスペックを抑えたミッドレンジのモデルだが、必要十分な仕様を満たしたモデルであり、ライトユーザーやはじめてスマートフォンを持つユーザーには適したモデルといえそうだ。

docomo withの対象機種が2機種に限定されていることについて、一部では「不公平ではないか」という指摘もあるが、これまでの割引サービスと違い、買い方を含めた料金プランに付帯する割引サービスとして提供されており、期間なども拘束されていないので、問題はないとしている。

しかもdocomo withの施策を作るにあたり、何度も総務省に足を運び、ガイドラインに触れないかどうかも確認済みだという。

ちなみに、docomo withの対象機種は今のところ、前述の2機種のみだが、NTTドコモでは「対象端末(第1弾)」と表記しており、今後、商戦期ごとに対象端末を追加してくる可能性はじゅうぶんに考えられる。

ただし、Galaxy S8/S8+やXperia XZ Premium、AQUOS R、iPhoneのようなハイエンドモデルが対象機種に選ばれる可能性は低く、基本的には店頭での一括払いの価格が3~40,000円以下のモデルが中心になると見られる。

SIMフリーを使いたいユーザーにも便利

前述のように、docomo withの適用条件として、「対象機種を使い続けている限り~」という項目が掲げられている。では、4年も5年も使い続けなければ、割引が継続しないかというと、そういうわけではない。

実は、この「対象機種を使い続けている限り~」という条件は、あくまでもNTTドコモの登録上の話であり、実際にはすぐに購入した対象機種からSIMカードを抜いて、手持ちの端末やSIMフリー端末に差し替えて、利用してもかまわない上、SIMカードを抜いた元の端末(docomo with対象機種)は売却してしまっても毎月1,500円の割引は継続される。

こうしてみると、docomo withは従来の割引サービスに比べ、期間拘束もなければ、利用端末の実質的な拘束もなく、初期条件さえ満たしてしまえば、利用できるゆるい条件の割引サービスとなっている印象だ。

では、具体的にどれくらいの金額で利用できるのかというと、1人で最も安い組み合わせとしては、基本プランを月額980円の「シンプルプラン」、パケットパックを月額3,500円の「データSパック(小容量)」を契約し、月額300円のspモードの使用料を加えると、従来は月額4,780円だったところがdocomo withであれば、月額3,280円に抑えることができる。

15年以上の長期契約のユーザーであれば、月額600円の「ずっとドコモ割」の割引も適用されるため、差し引きした月々の支払いは2,680円まで安くなる計算だ。

また、すでにNTTドコモを契約しているユーザーが家族用や自分用に、もう1回線を追加し、シェアパックで契約する場合は、シンプルプランの月額980円、シェアオプションの月額500円、spモードの月額300円の合計で、月額1,780円で利用できる。

対象端末を購入するという条件はあるものの、ここまで料金を抑えながら、利用できるネットワークや全国のドコモショップで受けられるサポートなどは、NTTドコモとの通常契約と何ら変わりなく、安心して利用することができる。

真の狙いは「サブブランド」キャリア対抗

ここまで料金が割安になると、MVNO各社の料金プランと変わらなくなるため、一部ではdocomo withが「格安スマホ潰し」ではないかと見る向きもある。

しかし、NTTドコモにとって、MVNO各社は自社のネットワークを貸し出している顧客であり、ビジネスパートナーと捉えている。docomo withがMVNO各社のサービスに影響がまったくないわけではないが、NTTドコモがdocomo withを発表した背景には、別の理由があるようだ。

実は、格安スマホの販売競争において、これまでの「格安スマホ」「格安SIM」のビジネスを展開してきたMVNO各社とは別に、最近、「サブブランド」キャリアと呼ばれる2社が急速に勢いを増し、契約数を伸ばしてきている。

その2社とは「ワイモバイル」と「UQモバイル」で、両社共に既存の携帯電話会社と資本関係を持ちながら、そのリソースとノウハウを活かしたサービスを展開している。

たとえば、ワイモバイルは元々、イー・モバイルとウィルコムが合併してできた会社だが、現在はソフトバンクと合流しており、ワイモバイルのサービスはソフトバンクが提供している。つまり、ワイモバイルはMVNOではなく、ソフトバンクの格安ブランドの1つに過ぎない。利用できるネットワークやエリアも基本的にはソフトバンクと同等となっている。

一方のUQモバイルはUQ WiMAXのサービスを提供してきたUQコミュニケーションズがauのネットワークを借り受けて提供するMVNOだが、元々、同社はKDDIが資本の1/3を占めており、人的なリソースも相互に活用するなど、密接な関係にある。

つまり、ワイモバイルはソフトバンク、UQモバイルはau(KDDI)のサブブランドという位置付けのサービスであり、他のMVNO各社に比べ、資金やネットワーク、販売など、さまざまな面でアドバンテージを持つ。

しかも両社はかつて「イー・モバイル vs UQ WiMAX」の時代から激しい獲得競争をくり広げてきた間柄で、現在も家電量販店における顧客獲得競争に加え、テレビCMなどのプロモーションでも真っ向勝負をくり広げている。

その結果、ここ半年から1年ほどの間の「格安スマホ」「格安SIM」の市場は、両社がMVNO各社をリードする形になっている。だからこそ、NTTドコモは「サブブランド」キャリアへの流出を防ぐために、毎月1,500円を永続的に割り引く「docomo with」というアグレッシブな施策を打ち出したというわけだ。

docomo withのサービスは6月1日に開始されたばかりで、対象端末の2機種も発売されたばかりなので、まだ現時点では何とも判断できないが、関係者によれば、出足はかなり好調なようで、問い合わせもかなり増えてきているという。

docomo withは将来的に対象端末の追加や内容の拡充などもあると噂されており、ユーザーとしては今後の展開が楽しみな施策といえそうだ。