[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第31回: 『けものフレンズ』に見るソシャゲとアニメの悩ましい関係

  • 2017年03月06日

日本が誇るアニメ産業を支えるアニメーターの年収が安いといわれて何年経ったことだろう……。

陸の蟹工船……アニメ製作会社!?

手塚プロダクション(※のちに『虫プロダクション』)が先鞭をつけたその業態は、約50年あまり変わっていないといわれている。

長時間労働、手作業にも関わらず低賃金のまま、陸(おか)の「蟹工船」なのか……それとも好きでなければやれない仕事なのだろうか。

文化庁の支援を受けて、公益社団法人日本芸能実演家団体協議会と一般社団法人日本アニメーター・演出協会が協力して実施した 『アニメーション制作者実態調査 報告書2015』によれば、アニメ業界全体の平均年収は332万円、最も低いものが111万円と報告されている。

それらのデータは、出来高制の制作者の数に比例して算出しているのかも知れないが、この調査データのみを見れば厳しい生活実態であることは間違いない。

2017年現在のアニメーション制作会社の実態とは

しかし、私が知っているアニメーション制作会社の方々の話を総合すれば、そのような厳しい環境下で働いているスタッフさんは少ないと思われる。

ちなみに、それらの大手アニメーション制作会社に勤務するサラリーマンプロデューサー、ディレクター、アニメーターの彼らは、ある程度好条件の労働環境で働いており、クリエイティブに専念する環境に恵まれている。

そして、そのような労働環境を提供できるアニメーション制作会社の制作開発ラインは常にフル稼働しており、著名なアニメーション制作会社であれば、ほぼ2年先までの制作作品が決まっているといっても過言ではない。

当然のことながら、それらのアニメーション制作会社が受託するアニメ作品は、ヒットコンテンツを持っている出版社や、放送枠を持っている地上波局、衛星テレビ局、そしてマーチャンダイジング(商品開発)に長けたおもちゃメーカー、ヒット作品を開発できるゲーム会社などと組むことが決まっている。

最近のトレンドを思い描く製作員会方式

かつて私が在職した映画会社ギャガ(当時はギャガ・コミュニケーションズ)では、自社のみでハリウッドのメジャー作品を買い付ける資金とパワーが不足していたため、ビデオメーカー、劇場、テレビ局などから出資を募って買付委員会を組成してきた。

それがさらに進化して具現化したものが、オリジナル映画などの製作員会方式によるコンテンツ開発だ。

今も邦画ジャンルでは、そのような組み合わせがたくさん見受けらるが、最近、私がよく耳にするのはソーシャルゲームを核にしたコンテンツ製作委員会方式の出資プロジェクトである。

つい最近も、大手パブリッシャーの連結子会社がソシャゲを核にし、アニメ、商品開発などのプロジェクトを発表したばかりだ。

それら製作委員会のメリットは、各パートナーの持っているメディアでの展開を相乗的に行うことで、そのコンテンツをより多くのユーザーに訴求しマネタイズ(収益化)することにある。

違う考え方をすれば、コンテンツの制作・開発予算が高騰しすぎて1社で負担できないから分散出資を募るという考え方もできる。リスク分散型投資プロジェクトといってもいいだろう。

ソシャゲ版『けものフレンズ』の誤算

最近、話題になっているアニメーション作品『けものフレンズ』をご存じだろうか。

『艦隊これくしょん』で成功したセオリーにちなんだキャラクターを擬人化したコンテンツで、「ジャパリパーク」に生息する「ケモノ」が萌えキャラ女子に擬人化したものだ。

ゆるい世界観と各キャラクター設定に特徴があり、若手からベテランまで声優をそろえているのがポイントだ。

このコンテンツを先導するかのように、ネクソンが開発したソシャゲ版『けものフレンズ』は2015年3月に導入され、残念ながらあまり大きな関心ひくこともなく、収益化ができないまま、ひっそりと2016年12月に終了した。

ゲーム自体は『にゃんこ大戦争』のような横スクロールのタワーディフェンス型のコンテンツで、特に真新しさは感じられない。『けものフレンズ』全体の制作投資プロジェクトにいえることだが、制作・開発予算そのものはあまり大きくないと見ていいだろう。

プロジェクトの開発パートナーとしてはネクソン以外に、カドカワ、クランチロール、ブシロード、テレビ東京などが関わっている。

導入のタイミングのズレと成功の可能性

『けものフレンズ』のコンテンツ制作プロジェクトの中でクローズしたのは、ソシャゲだけではない。

カドカワで展開されていた『月刊少年エース』での漫画の連載も新年1月26日発売号で終了した。ブシロードグループのネットラジオ配信会社Hibikiでの放送も週刊ペースから隔週ペースに格落ちした。

確かに誰も、アニメのここまでの成功を予見しなかっただろう。それは制作に関わった監督自身も「想像を上回る反響に困惑している」というコメントを発表している。

おそらく、『けものフレンズ』のプロジェクトもすべてのコンテンツが同じスタートラインに立って「よーい、ドン」で始まっていれば、展開や成功のスケールも異なったかもしれない。

個人的な知見の域を越えないが、冒頭で説明したように、大手や実績のあるアニメーション制作会社は2年先まで制作開発ラインが埋まっている。

ゲーム開発の方が開発会社をうまく選べば、1年以内に開発から導入までを実現することができる。つまり、『けものフレンズ』の場合もプロジェクトの着手は同時だったはずが、ゲーム、漫画は先にでき上がってしまったのでリリースしたというものだろう。

もしくは、先にソシャゲをヒットさせておいて、あとからアニメ、出版で盛り上げるつもりだったか……。もちろん、あわよくばゲームでの成功をフックにさらにアニメーションで加速することを目論んでいたではないだろうか。しかし残念ながら、そのもくろみは潰(つい)えた。

ただし、このアニメ版の想像を上回る反響を基に、『けものフレンズ』のソシャゲ版スピンオフ企画コンテンツを半年以内にリリースすることでプロジェクトのリカバリーができるかも知れない。

「もしも……だったら」という話は、プロジェクト関係者にとっては今さら感があるかも知れないが、ヒットコンテンツそのものが枯渇しているなかで、「ゲーム開発が得意なフレンズ」が再び知恵を絞りコンテンツ開発にトライする価値はあると思う。いかがだろうか。