【法林岳之のFall in place】第31回: Galaxy Note 7の発火問題から学ぶべきこと

昨年8月、アメリカのニューヨークで華々しく発表されながら、直後に発火や炎上のトラブルが発生し、生産中止と回収に追い込まれたサムスンのGalaxy Note 7。残念ながら、日本での発売は見送られたが、1月23日にトラブルの原因を究明した詳細な発表が行なわれた。その内容を見ながら、我々ユーザーが学ぶべきことを考えてみよう。

Galaxy Note 7発火トラブルの顛末

Galaxy Noteシリーズといえば、大画面とペン操作によって進化を遂げ、グローバル市場でもGalaxy Sシリーズと並ぶサムスンのフラッグシップモデルとして、広く人気を集めていた。

昨年8月、その最新モデルとなる「Galaxy Note 7」がアメリカのニューヨークで行われた「SAMSUNG Galaxy Note Unpacked 2016」で発表され、筆者もこのイベントのために渡米し、実際に製品を試すことができた。

その様子は本コラムでも取り上げたが、アメリカをはじめ、世界各国から集まったメディアや関係者で、たいへんな盛況ぶりだった。

製品も非常に完成度が高く、ペンのレスポンスのよさをはじめ、Galaxy S7 edge譲りのカメラや防水、新たに搭載された虹彩認証など、発表時点では考えられるほとんどの機能を実装した最強のスマートフォンに仕上げられていたという印象だった。

筆者が昨年、試したスマートフォンの中でも1、2を争う出来だったといっても差し支えない仕上がりだった。

ところが、2016年8月19日にアメリカで製品の販売が開始されると、8月下旬には発火や炎上のトラブルが相次いで報告され、国内でも少しずつ話題になりはじめる。こうした状況に対し、サムスンは2016年9月2日にGalaxy Note 7の販売を一時的に停止し、新品と交換するリコールを発表した。

Galaxy Note 7は内蔵バッテリーを韓国のSamsung SDIと中国のAmperex Technology(ATL)の2社から供給を受けていたが、この内、発火のトラブルを起こしていた本体にはSamsung SDI製バッテリーが搭載され、Amperex Technology製バッテリーは発火のトラブルが確認されていなかったため、Amperex Technology製バッテリーに交換するリコールを実施した。

すでに、Amperex Technology製バッテリーが搭載されている端末には、ソフトウェア更新によって、画面表示で区別できる措置も執られたという。

ところが、10月に入り、リコールで交換したAmperex Technology製バッテリー搭載の本体でも発火するトラブルが発生したため、2016年10月11日にはGalaxy Note 7の生産中止と全品回収、既存ユーザーの交換プログラムが発表された。

日本市場向けについては、2015年モデルのGalaxy Note 5が投入されず、ユーザーからも「Galaxy Note新モデル待望論」が高まっていたこともあり、各携帯電話事業者向けに供給する方向で準備が進められていたが、一連の発火トラブルから投入が見送られた。

各方面の情報をまとめると、NTTドコモとauが秋冬モデルにラインアップする予定で、カタログの印刷やプロモーションの準備なども進められていたようだ。

なぜ、発火や炎上が起きたのか?

改めて説明するまでもないが、サムスンはスマートフォンで世界トップシェアを持つメーカーであり、グループでは液晶パネルや有機ELディスプレイ、メモリーやチップセットなどの半導体などのスマートフォンを構成するデバイスも数多く手がけている。

おそらく、世界で最もスマートフォンをよく知るメーカーといっても過言ではないだろう。

そんなサムスンがなぜ、Galaxy Note 7という主力モデルで、発火や炎上という致命的なトラブルを起こしたのだろうか。同社は販売中止から数ヵ月間、この問題の原因を解明するために、約700人の技術者、約20万台の試験端末、約3万個のバッテリーを用意し、3つの独立した外部調査機関にも依頼し、徹底的な調査を行なったという。

そして、2017年1月23日に韓国ソウルで行なわれたプレスカンファレンスにおいて、その調査結果を発表した。

サムスンによれば、今回のトラブルは、前述の2社から供給された内蔵バッテリーに個別の問題があり、発火や炎上というトラブルを起こしたという。

それぞれのバッテリーに起きた問題については、リチウムイオンバッテリーの内部構造の技術的な解説を含むため、一般ユーザーにはやや理解が難しいが、少し要約して説明すると、1社のバッテリーについては、バッテリーそのものが外部からの圧力などで変形したことにより、内部の絶縁部が破損し、発熱や発火を起こしたそうだ。

もう1社のバッテリーについては、内部の基板で接合の不具合があり、バッテリー内を区切るセパレーターが破損し、発熱や発火に至ったという。

他の要因については、サードパーティー製アプリをインストールしての検証をはじめ、新機能の1つである虹彩認証のセンサーの異常、有線及びワイヤレスによる充電、組み立て時や輸送時の検証なども行ったが、いずれも問題がなく、最終的にバッテリーそのものの不具合に起因するトラブルだと結論づけられた。

サムスンは今回のトラブルと調査結果を踏まえ、今後の対策として、外部の識者で構成される「battery advisory group」を起ち上げ、「8-Point Battery Safety Check」と呼ばれる試験や「multi-layer safety measures」と呼ばれるソフトウェア設計の安全対策に取り組んでいくことも合わせて発表された。

また、ここ数年、2月下旬に開催される世界最大のモバイル業界の展示会「Mobile World Congress」で、Galaxy Sシリーズの新モデルを発表してきたが、今年は今回の調査や検証を踏まえるため、その時期には「Galaxy S8」と噂される新モデルを発表しないことが明らかにされている。

どのスマートフォンでも起こり得る

昨年の夏以来、モバイル業界を大きく騒がせてきたGalaxy Note 7の発火問題。

航空機への持ち込みが禁止され、日本を発着する国際線だけでなく、国内線でもアナウンスが行われたり、宅配便などでも取り扱いが制限された。

ちなみに、グローバル向けに販売されていたGalaxy Note 7は、日本国内で利用するために必要な「技術基準適合認定」を受けていなかったため、実質的には海外から日本を訪れた渡航者が持ち込むケースのみに限定されていたが、それでも各方面でアナウンスされたため、日本未発売のモデルでありながら、かなり広く「Galaxy Note 7」のトラブルが周知された。

今回の問題について、人によっては「Galaxy Note 7で起きた問題だから、自分のスマホは関係ない」と考えているかもしれない。

確かに、サムスンがGalaxy Note 7の高性能化、高密度化を追求するあまり、起こしたトラブルという見方もできる。バッテリーに原因があるとはいえ、製造メーカーだけに責任があるわけではなく、バッテリーを発注したサムスンにも責任がある。

だからこそ、サムスンはこれだけ大規模で詳細な調査を迅速に行なったともいえるわけだ。

では、他の機種は無関係かというと、そう簡単な話でもない。現在のスマートフォンにはどの機種にもリチウムイオンバッテリーが搭載されており、素材や性能などに多少の違いがあるものの、基本的な構造は大きく変わらない。

そのため、バッテリーの製造メーカーの段階で不具合を起きてしまえば、どのメーカーのスマートフォンでも同様のトラブルが起こり得る。

一般的に、リチウムイオン電池はエネルギー密度が高いため、コンパクトなスマートフォンにもじゅうぶんな電力を供給することができるが、エネルギーが大きい分、過充電や過放電、内部的なショート、発熱などが発生すると、バッテリーそのものが損傷し、今回のGalaxy Note 7のように、発火や炎上といったトラブルを起こしてしまうかもしれない。

スマートフォンの電源に関連するトラブルについては、海外では粗悪なサードパーティ製の充電器やケーブルで充電して、スマートフォンを燃やしてしまったり、スマートフォンを充電しながら、ジップロックなどの食品保存袋に入れて、風呂場に持ち込んで、感電死してしまうといった事故も報告されている。

Galaxy Note 7の発火問題は今回の調査結果発表でひと段落したことになるが、我々ユーザーも「スマートフォンは電気で動いていること」「バッテリーは強力なエネルギーを持ち、取り扱いを誤ると、大きなトラブルにつながるかもしれないこと」など、基本的なことを再確認し、メーカーや各携帯電話会社などがアナウンスしている注意事項なども今一度、目を通したうえで、安全かつ楽しくスマートフォンを使うように心がけたい。