【西川善司のモバイルテックアラカルト】第6回: ゲーム機がいらなくなる時代はくるのか? クラウドゲーミングの話(1)

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今回から数回、「新しいゲームプラットフォーム形態」として注目を集めている「クラウドゲーミング」の話題をお届けしたい思います。「クラウドゲーミング」という言葉を耳にしたことはありますか? 「そんな雲を掴むような話、知らない」なんてうまくボケた人。それ人前でいうとスベります。ボクは以前やった講演でそのギャグでスベりましたから、確実です(笑)。

クラウドゲーミングとは?

クラウドゲーミングというキーワードは、スマホやタブレットでゲームを楽しんでいる人にとっても無縁な話ではないので、知らなかった人は覚えておくといいと思います。

クラウドってなに?

そもそも「クラウドってなによ」という人もいるかも知れません。最初に、用語の解説をしておきましょう。

ここでいう「クラウド」(Cloud)とは、確かに「雲」(Cloud)の意味がありますが、平易な言葉でいうならばネットワークの向こう側に設置されたコンピューター群のことです。用語の定義としては「サーバー」に近いですね。1台のコンピュータではなく複数のコンピューター群で構成されていて、ユーザーはあたかも自分専用のマシンのようにして使えますが、クラウド側から見ると大勢のユーザーのうちの1人に、そう見せかけて使わせているに過ぎません。こうしたクラウドサービスを「バーチャルマシン」(VM)と呼びます。

用語から理解しようとするならば、「クラウドゲーミング」とは、「クラウドを使ったバーチャルマシンサービスの一形態」ということができます。ちなみに、カタカナで同じ「クラウド」となる英単語に群集の意味をなすCrowdがありますが、Cloudとは発音が違う点に注意しましょう。受験英語の発音の問題では定番なので受験生は覚えておくといいですよ。豆知識です(笑)。

従来型のゲームとクラウドゲーミングの違いとは?

再び話を戻します(笑)。ゲーム専用機にしろ、スマホゲームにしろ、現在の一般的なゲームでは、手元の端末(コンピュータのこと。より具体的にはゲーム機やスマホ、パソコンなどを指す)上でゲームプログラムが動作しいて、この手元の端末がゲーム映像を画面に出力しています。

プレイヤーは画面表示された映像を見て、手元のゲームコントローラー(ゲームパッドなど)を操作します。そして、その操作内容はゲーム機に伝達されて、ゲームプログラムはその内容を吟味してゲーム処理を進め、次の映像描画に取りかかります。以下、その繰り返し……ですね。

一方の「クラウドゲーミング」とは、主だったゲームプログラムはユーザーの手元では動作しておらず、ネットワークの向こう側の「クラウド」側(クラウド側の仮想マシン)で動作していることが技術上の最大の特徴となります。

クラウド側で動作しているゲームプログラムもゲーム映像を描画しますが、この映像はネットワーク(インターネットなど)を通じてユーザーの持つ端末(クライアント)に伝送されてきます。

クラウド側からネットワークを通じてやってきたゲーム映像は端末側に接続された画面(テレビやディスプレイ)に表示されることになり、プレイヤーはこの映像を見て端末に接続されたゲームコントローラーを操作することになります。端末がスマートフォン、タブレットの類ならばその端末本体をゲームコントローラーとみなしてそれ自体を操作することになるかも知れません。いずれにせよ、そのプレイヤーの操作は端末内で「操作データ」に変換されてネットワーク経由でクラウド側に伝送されます。クラウド側で動作しているゲームプログラムは受信した「操作データ」を吟味してゲーム処理を進め、次の映像描画に取りかかります。以下、その繰り返し……です。

クラウドゲーミングでは、ゲームプログラムやゲーム映像の描画をクラウド側で行っているので、ユーザー側の端末にはそれほど高い性能が求められないことが特長といえます。具体的にいえば、端末側にはゲームコントローラーを接続できるインターフェース機能やその処理能力、ネットワークアクセス能力、そしてネットワークからやってきたゲーム映像を適切に処理して(デコードして)テレビに出力できる能力さえあればいいのです。

現在の据え置き型ゲーム専用機のような、高性能CPUや高性能GPUがなくとも、とてもリッチなゲーム体験を愉しむことが出来るのが、クラウドゲーミングの特長なのです。

ゲームスタジオがタイトルごとに各ゲーム機を持つ時代

クラウドゲーミングに関してゲーム業界が大きな関心を寄せているのにはいくつかの理由があります。

1つはプラットフォーム戦争の行く末を見極めずとも、提供したいゲームを好きなタイミングでゲーム開発ができるという点です。

あえて名前は伏せますが(笑)、90年代以降、日本では「某国民的RPGや国民的オンライン狩りゲームがどのゲーム機で出るか」というのが「そのゲーム機の成功可否」の話題として語りぐさになることがあります。

実際これまで、そのゲームスタジオとしては最もユーザーの多いゲーム機を選択して、その機種に対してゲームを開発してきたわけですが、その機種を持っていないユーザーは当然そのタイトルを遊びたくても遊べませんでした。これはゲームスタジオ側からすれば市場機会を失っていた……ともいえます。

クラウドゲーミングならば、ゲームスタジオは、クラウドシステムだけにゲームを開発すればよくなります。もちろん、各端末向けのクライアントソフトの開発も必要ですが、ゲームプログラム本体をさまざまな機種に移植開発するのと比べれば手間はほぼないに等しいといえます。

理由2つめは、ゲーム機のモデルチェンジを待たずとも、どんどん最先端の技術を導入したゲーム開発が行えるという点です。

これまで、ゲーム機は一度発売されれば約5~7年はモデルチェンジせず、性能は次世代機が出るまでほぼ固定化されるのが常でした。逆にいえば、ゲーム技術の進化はゲーム機のモデルチェンジサイクルに抑え込まれてきた……ともいえますよね。

クラウドゲーミングの場合、ゲームスタジオが開発したいゲームの仕様に合わせたCPUなり、GPUなりでサーバーを構成できますから、いわばゲームスタジオがそのタイトルのために最適なゲーム機(実際にはクラウド)を構成することができるわけです。

例えば、前述したような高確率でヒットが見込める国民的RPGや国民的オンライン狩りゲームならば、やや大きめな投資を行ってハイスペックな仕様のクラウドにすることが可能でしょう。一方でパズルゲームのような、それほどハードウェア側に高い性能が要求されないタイトルは、以前構築した古いクラウドで動かすようにすれば、ゲームスタジオ側も償却効率をよくできます。

クラウドゲーミングのユーザーメリットはどこにある?

ユーザー側のメリットも小さくありません。

ゲームプログラムはクラウド側で動作しているので、ユーザーは特定機種のゲーム機を買い求めなくても、多様な端末でそのゲームを楽しむことができます。それこそ、スマホやタブレットでハイエンドな仕様のゲームが楽しめるのです。それと、たとえプレイする端末(例えばスマホやタブレット)を買い替えた場合でも、ゲームは買い直さなくてもいいのです。

そして、ゲームスタジオは、大作タイトルリリース時期ごとに高確率でクラウド側のCPUやGPUをグレードアップしてくれるため、ユーザーは端末を買い替えなくても、新登場する新作ゲームをプレイするたびに、よりリアルになった映像表現、大規模になっていく物理シミュレーション、賢くなったAIを堪能できるようになるわけです。

おわりに

PS4は今秋から、過去のPS3用ゲームの名作をクラウドゲーミングの形で提供するサービス「PlayStation Now」を一般向け有償βテストの形でスタートさせました。現在は、PS4、PS VITA、PS VITA TVに対応していますが、近未来的にはソニー製の家電製品のテレビ・ブラビアやブルーレイレコーダーでも「PlayStation Now」を楽しめるようにするそうです。きっと、いずれソニーブランドのスマホ/タブレットのXPERIAシリーズにも提供されることでしょう。

2015年9月から一般ユーザー向けに有償βテストを開始したソニーコンピュータエンターテインメントのクラウドゲーミングサービス「PlayStation Now」。写真は発表会時のもの

クラウドゲーミングサービスで最も有名なのは、2013年末に盛んにTVCMが打たれたことで認知度を上げた「G-Cluster」でしょうか。最近ではシャープの液晶テレビAQUOSシリーズにG-Cluster端末機能が標準採用されたことでも話題を集めました。

G-ClusterのWebサイトより。FFシリーズやウイイレなどファンの多いゲームが対応している

一方で、2015年の9月のつい先頃、スクウェアエニックスが、自社で推進してきたクラウドゲーミングサービス「DIVE IN」を1年足らずでサービス終了としてしまいました。公式な理由は語られていませんが、それほど人気が出ず、収益率がよくなかったため、といわれています。

このように、すで行く末の明暗が分かれた事業者も出てきているクラウドゲーミングですが、今後、しばらくは、このキーワードを耳にし続けそうです。

NVIDIAは同社のSHIELD(Android端末)用にクラウドゲーミングサービス「GeForce Now」を10月から開始している

次回は、さらに別視点のクラウドゲーミングの話題をお届けします。