スーパーマリオ ラン1,200円を巡る理性と感情の争い【山本一郎のスマホ情報見聞録】

山本一郎です。誰だお前といわれそうですが、山本一郎ですとしかいいようがありません。ということで、巷でうわさの『スーパーマリオ ラン』やってるわけですよ。

配信自体が午前3:00とかいう時間帯だったみたいで、その日のお昼過ぎにTwitterのタイムラインで気づいてダウンロードした私はプレイ開始が少し遅れたのですが、そのときにみんな1,200円、1,200円といっていたので、何だろうと思ったわけです。

んで、この『スーパーマリオ ラン』が「任天堂の」アプリだとみんなが思ってたところが、実は! その! 制作会社は! あの! DeNAであるわけです。

DeNAといえばご存知、キュレーションサイト「WELQ」の炎上から消化失敗の記者会見まで、いちいち面白いアプローチでブランドイメージが地に落ちたナイス企業でありまして、当然のごとく『スーパーマリオ ラン』の広報宣伝においてはもちろん、リリース記者会見もまともに行うことなく現在に至っています。

まあ、時節柄見送りたいというDeNAの気持ちはわかる。

でもですね、この『スーパーマリオ ラン』ですけど、DeNAにも「いいゲームを作れる精神がまだまだ残っているじゃないか」という素晴らしい品質なんですよ。ゲーム単体としては個人的に惚れ込むぐらいよくできています。

やり込まないと思いどおりマリオが動かないとか、ちょっとでも通り過ぎるとすぐそこに見えている紫コインが取れないなどの超絶ストレスフルな仕様は入ってますけど、スマホ出たてのころに乱立したラン系各種ゲームに比べれば本作品は死ぬほどよくできてるし、かなり真面目にチューニングしてある名作、佳作とでもいえるほどの完成度だと思うわけです。

なんだよDeNA、メディア事業ではクズっぷりを晒して早く潰れろと思っていたけど、ゲームを作ることに関してはまだまだ魂を滾(たぎ)らせている優れた制作野郎がたくさん残っているんじゃないのか。

謝罪会見では、守安功社長が「ほかの新規事業がどれもうまくいかなかった」とまさかの社内DISをぶっ放して渋谷の高額オフィスビル「ヒカリエ」の一角がお通夜になっていたと思いきや、いい仕事をできる人間が真面目に制作に取り組んでいたのか。

そのぐらい、ゲームだけ見れば面白いんですよ。それこそ、日本人だけでなく世界的なタイトルである『マリオブラザーズ』の遺伝子を受け継ぐ優れた内容だと思います。

スマホで簡単に楽しくマリオの世界を楽しむにはこの方法だ、あえて横持ちではなく縦だという判断からタップだけで簡便に遊べてこそのマリオだ、と。

そういう優れた作り手の希望や根性が見えている分だけ、3ステージが終わっていきなり課金画面が出るとか総萎えなわけであります。みんな1,200円、1,200円いってた理由はこれだったのか。

いや、ワールド1-3までは面白いですよ。で、ワールド1のボスであるクッパが出てくるぞ! ってところまでお試しで遊ばせておいて、ボス戦が面白いかどうかまだわからないところで1,200円。

たぶん面白いだろうと思った人は1,200円払ったんでしょうけど、ここから先はワールド6まで有料な、といわれたら、無課金厨は激怒でありましょう。なんかこう、土管とは比較にならない凄まじく高すぎる壁的な何か。

たった、1,200円なんですよ。ぶっちゃけ、ほかの課金ゲーとか札束で殴り合うタイプの村ゲーであれば、3,000円、5,000円平気でぶっこんで10連ガチャ回して浮かれたり凹んだりするプレイヤーでさえ、ここで1,200円とかいわれるとないわーって感じだと思うんですよ。

せっかくの待望のマリオのスマホゲームだし、先を見てみたい気分でいっぱいであるにもかかわらず、テレビ番組がCMの前に「このあと、衝撃のラストが!」みたいな引っ張り方をされて逆にムカついてチャンネル変える的な何か。

で、1,200円を払うに値するか確かめるために、ワールド1-1から1-3をプレイし直すわけじゃないですか。このゲーム、本当にぶっこんでいいんだろうかと思いながら。

そうするとですね、まあ確かに簡単にクリアできるようにはできてますよ。コインを無理に取らなければちゃんと下手でもやっていけるようにデキてる。でも、この単調なワールド1-1まで、どこにあるか覚えなければならない紫のコイン集めるために幾度となく、何度も何度もキノコや亀と戯れながらやっていけるんだろうか。

キノコいっぱい倒してレベルアップしました、コインがいっぱい手に入るようになりましたといわれても、そのコインを使って何が楽しいことになるのかわからない。チュートリアルを見た限りでは自分の城が作れるらしいですけど、そこまで至ってもいないからね。

『スーパーマリオ ラン』の面白さを実感する前に。1,200円を払うべきかを悩むというユーザーに対する突き付け方がハイブローなんですよ。これはレベルデザインの問題なのかもしれないし、マリオに思い入れのないユーザーお断り仕様なのかもしれない。

でも、それだったらタップだけで進んでいけるような簡単仕様にする必要はないし、その一方で空中で滞空ターンしたり、壁キックジャンプで登っていくとかいうイマイチ体感にあわない挙動を入れなくてもいいんじゃないかと思うわけであります。

私、普通にマリオを遊びたかったんですよね。

子供のころに「スーパーマリオブラザーズ」をそれなりに遊んできた印象と、目の前にスマホになって「手軽になったぞ。さあ遊べ」と言われてやってみた感覚との、絶望的な肌触り、指触りの違い。

それでいて、スマホゲームとしての完成度は高い。クソゲーではない、でもマリオじゃない、課金したいけど遊び続けられるか、やり込めるのか、すごく不安になる感じ。もっと気持ちよく課金できるために何が必要なのか、プレイヤー自身がゲームから試されてしまうようなそういうアプリになっておるわけであります。

そして、私はまだ課金してません。うー。これは絶対やり込まないやつだ。

リスク取ってスマホに打って出た任天堂に、スキャンダルに見舞われながらも前を向いて政策でがんばって最後までやり遂げたDeNAに、お布施と思って1,200円払うのも人間の道だと思いつつも、いや、これはほかの廃課金ゲーと比べても圧倒的に良心的なんだぞと理性が囁いても、クッパ直前で「金払え」とポップアップされたときの私の感情が許さないのであります。

せめて、「ワールドごとに300円で、全部足すと1,800円だけど、いままとめて買えば1,200円ですよ」とかやってくれたら買うだろうかとか、このあとガチャでも実装されてマリオがカスタマイズデキたり城が立派になったりフレンド呼べたりいろいろできるようになるだろうという期待を持っても「それが実装されてから金払えばいいんじゃね」という気持ちになってしまう貧困な私の感情が荒ぶっています。

戦いですよ。これはもう、1,200円を巡る理性と感情の争いですよ。これがSteamセールで50%引き1,200円とかだったら躊躇なく買っていたであろう『スーパーマリオ ラン』から突き付けられた挑戦状に他ならない。スタミナ制にしなかった誇りも重課金上等廃課金ガチャゲーではない良心も、痛いほどわかるのに。

そんなこんなで2時間ほど悶えておるわけです。

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