【法林岳之のFall in place】第29回: 大容量、カウントフリー、繰りこし、還元など、料金プランの戦いは続く

昨年から今年にかけて、着実に市場を拡大しつつあるMVNO各社。「格安スマホ」「格安SIM」という言葉が登場した約2年ほど前は、一般ユーザーから見れば、それが何者なのかもわからず、先行きが不透明な印象は否めなかった。ところが、ここ1年ほどの動向を見ていると、「格安スマホ」「格安SIM」という言葉はすっかりと市民権を得つつあるようだ。

LINEモバイルで注目を集めたカウントフリー

今年9月に総務省が2016年第1四半期の契約数を明らかにした内容によれば、MVNOでSIMカード型の契約数が600万回線を超えたところで、国内の携帯電話の契約数である1億6000万から見れば、まだ規模は小さいが、着実に注目度は高まっており、MVNO各社と端末メーカーはにわかに活気づいている。

こうしたMVNO各社のサービスが活気づいてきている背景には、MVNO各社の弱点といわれていたところを着実につぶしつつ、携帯電話各社との対抗色を鮮明にしてきたことが挙げられる。中でも料金プランについては、なかなか興味深い動きが見受けられる。

MVNO各社は当初、音声通話が可能な料金プランを月額1,600~1,800円程度で展開してきた。このプランには当初、1GBのデータ通信量を含んでいたが、現在は3GBが主流になっており、かなり割安になってきた印象を受ける。

中には容量無制限を謳うMVNOの料金プランもあるが、これは以前にも説明したとおり、通信速度が大幅に制限されてしまうため、なかなか同じレベルでは比較できない。

ちなみに、データ通信サービスの実効速度について、総務省は大手携帯電話会社に対して、一定のルールに基づき、計測結果をWebページにで公開するように指導しているが、MVNOに対してはこうした指導が行なわれていないため、ユーザーとしてはちょっと市場での評価のみで判断しなければならない状況にある。

MVNO各社の料金プランがある程度、横並びに近付いてきたといわれる中、今年はいくつか新しいプランが登場し、注目を集めた。

たとえば、今年9月にサービスを開始した「LINEモバイル」では、LINEのトークなどの通信を月々のデータ通信量にカウントしない「カウントフリー」という新しい手法で、料金プランの差別化を図っている。

カウントフリーを提供しているのは「LINEフリー」と「コミュニケーションフリー」という2つの料金プランで、それぞれに決められたアプリの通信を利用する場合のデータ通信が月々のデータ通信量にカウントされない。

「カウントフリー」で料金プランの差別化を狙うLINEモバイル。「LINEフリー」と「コミュニケーションフリー」の2つのプランを提供

現在、LINEを利用しているユーザーにとって、魅力的なプランと捉えられがちだが、実はLINEモバイルとしては、現在LINEのアクティブユーザーである若い世代の親の世代がフィーチャーフォンを利用している状況を踏まえ、フィーチャーフォンからスマートフォンに移行してもLINEのトークなどではデータ通信量がかさむ心配がないと訴えたいという目論見もある。

LINEトークの画面に配信されるLINE LIVEなどのライブストリーミングなど、一部、カウントフリーの対象外になるものもあるが、「コミュニケーションフリー」の料金プランでは「LINEフリー」のプランで提供されるものに加え、Twitter、Facebook、Instagramのデータ通信も対象にしており、こうしたコミュニケーションサービスを多用するユーザーには気になる存在となっている。

ちなみに、このカウントフリーという手法は、LINEモバイルのMVNE(Mobile Virtual Network Enabler/移動体通信サービス提供事業者)であるNTTコミュニケーションズが運用している。

こうした特定アプリの通信を月々のデータ通信量にカウントしないという手法は、これまでもFREETELが「FREETEL SIM for iPhone」で、アップルのアプリストア「AppStore」でのダウンロードを無料にするというプランを打ち出しており、今後も他社がさまざまな形で特定の利用に対するデータ通信量をカウントしないサービスを展開してくる可能性もある。

モバイルWi-Fiルーターを吹き飛ばす大容量プラン

LINEモバイルで注目を集めたカウントフリーという考え方だが、携帯電話事業者側はネットワークを持つという本来の力を活かして、iPhone 7/7 Plusの発売時期に、これまでのデータ通信量とはけた違いの「20GB」「30GB」という大容量プランを打ち出してきた。

先陣を切ったのはソフトバンクで、これにauが続き、NTTドコモも翌週に追随してきた。

この大容量プランが強烈なのは、それまで10GBで月額8,000円~1万円程度だったデータ定額の料金を20GBで6,000円に設定し、1GBあたりの単価を1/3以下にしてしまったことにある。

最終的に他社対抗で各社の料金はほぼ横並びとなってしまったが、先行したソフトバンクを例に取ると、月に20GBまで利用できる「ギガモンスター データ定額 20GB」は月額6,000円で、その下のプランである「データ定額 5GB」との差額はわずか1,000円しかない。

つまり、データ定額5GBを契約するユーザーは月に1,000円追加すれば、4倍のデータ通信量が利用できる計算だ。

こうした料金の「デフレ」ともいえる現象は、結果的にユーザーの利用スタイルも少しずつ変えようとしている。

たとえば、これまでパソコンなどでデータ通信を利用するときは、モバイルWi-Fiルーターの利用が一般的だったが、スマートフォンのデータ定額パックがこれだけ割安になるのであれば、モバイルWi-Fiルーターを解約し、スマートフォンのテザリングで対応するという人も出てきている。

ソフトバンクの「ギガモンスター データ定額 20GB」と「ギガモンスター データ定額 30GB」の場合、テザリングの利用には別途、1,000円の月額使用料が請求されるが(2017年4月まではキャンペーンで無料)、それでもユーザーが「わざわざ月に数千円を払って、モバイルWi-Fiルーターを持つくらいなら……」と考えてしまうのもじゅうぶんに納得できるだけのインパクトを持つ。

LINEモバイルのカウントフリーと違い、どのアプリが無料で、どのアプリが有料になるかといったことを考える必要もなく、思う存分、使えるというわかりやすさもある。

そして、この大容量プランはNTTドコモ、au、ソフトバンクといった携帯電話会社だけでなく、MVNO各社も発表し、さらに拡大の様相を見せている。

たとえば、楽天モバイルは通話SIMで、20GBで4,750円、30GBで6,150円という大手3社よりも割安なプランを打ち出している。

容量別に細かく料金プランをそろえるイオンモバイルは、同じく音声通話が可能なプランで、20GBで4,980円、30GBで6,980円、40GBで7,980円、50GBで10,800円と、かなり大容量のプランまで取りそろえている。

20GBで4,750円という携帯電話会社よりも割安な大容量プランを打ち出した楽天モバイル。5分かけ放題オプションなど、大手への対抗策を次々と展開

この他にもFREETELや日本通信、DMM Mobile、U-mobileなどが相次いで20GB以上の大容量プランを打ち出しており、今後の主流になりそうな勢いだ。

一方、「そんなに大容量じゃなくていいから、もっと安くしてほしい」という声に応え、IIJmioは余ったデータ通信量に応じて、月額利用料から割り引くという「エコプラン」を打ち出している。

同社が提供するサービスの内、au回線を利用する「IIJmioモバイルプラスサービス」で提供されるもので、月に3GBまで利用できる月額1,600円の「エコプランミニマム」の場合、余った容量が500MB以上1GB未満なら100円、1GB以上1.5GB未満なら200円、1.5GB以上2GB未満なら300円、2GB以上3GB未満なら400円を月額料金から割り引くという内容となっている。

これまでデータ通信量の余りを翌月に繰りこすという形のサービスは、携帯電話会社でもMVNO各社でも提供されてきたが、余りに送料する金額を月額利用料から割り引く「還元」という形は、なかなかユニークな取り組みといえそうだ。

11月~12月の年末商戦、年明けの1月~3月の春商戦は、スマートフォンの販売が大きく伸びる時期と期待されており、新機種への買い替えを検討している読者も多いだろう。新機種のチェックも大切だが、この料金プランの変革もぜひ忘れずにチェックしておきたい。