[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第20回: インディーズゲームシーンの分岐路

日本のインディーズゲームシーンを2年以上に渡って映像取材したドキュメンタリー作品『Branching Paths』(ブランチング パス)を観た。Branching Pathsとは、文字どおり「分岐路」と邦訳するのが的確だろう。インディーズゲーム開発を巡る、そこに関わる人々の人生の分岐路を描いた作品に結果的になっている。スクリーンには知っている開発者や関係者が次から次へと紹介され、彼らの活動に地道に寄り添ったタイムラインが展開される。経緯説明のため、やや冗長な演出部分もあるが、現在の日本のインディーズゲーム開発シーンをていねいに追った作品だ。

「インディーストリーム」に集いし勇者たち

『Branching Paths』の製作が発表されたのは、2015年の東京ゲームショウの関連イベントとして開催された「インディーストリーム」というイベントだった。私もその日、そのとき、その場所にいた。

会場は海浜幕張駅近くのカジュアルレストラン。大手パブリッシャーのプレジデントを始めとして、インディーズゲーム開発者や、その関係者が数多く参加した交流会だ。

製作着手の正式発表とはいえ、その前からすでに撮影に入っており、「インディーストリーム」の参加者からは拍手と歓声を持って迎えられた。

人生の分岐路を描いた作品に結果的になっていると書いたのは、長期間の密着撮影のため。個人たちの当初の目論みや期待とは異なった結果を迎えるような部分もあり、まさに分岐路を映像として感じさせる。公式サイトはこちら

2000年版「プレイステーションドリーム」

日本国内でインディーズゲームが注目され始めたのは、2013年の東京ゲームショウにおいて、インディーズゲームブースが設けられたことが記憶に新しい。

その後、徐々に規模を拡大して、ソニーコンピュータエンタテインメント(現在のソニー・インタラクティブエンタテインメント)がブース費用を負担するなどの積極的な支援が目立った。

おそらく、それはかつて1994年にローンチしたプレイステーション(初代)の際に展開した、新しい才能発掘プロジェクト「プレイステーションドリーム」に準(なぞら)えたものだと思われる。

パブリッシャーとしては、従来のクリエイターにない新しい発想やエンタテインメントを模索することも重要な命題だからだ。

あれから2年、何が変わったのか……?

ゲームのクリエイティブ自体が大きく変わったわけではないが、数多くのクリエイターによる開発着手が目立って来たのも、やはり2013年ごろではなかっただろうか。

おそらくそれをセンセーショナルに飾ったのは、稲船敬二氏によるクラウドファンディング(Kickstarter)プロジェクト『Mighty No.9』がその発火点だろう。クラウドファンディングの結果、約4億円の資金を勝ち取った。

その後の2014年には、コナミデジタルエンタテインメントを退社し独立した五十嵐孝司氏による『Bloodstained: Ritual of the Night』のクラウドファンディングプロジェクトが、約5億円の資金を集めることに成功した。

最近ではセガで辣腕を振るった、鈴木裕氏の「シェンムーⅢ」が記憶に新しい。こちらはなんと、クラウドファンディングで8億円の資金を募ることに成功した。

つまり、家庭用ゲームソフトやパブリッシャーで活躍したゲーム開発者への新作の期待は大きくなり、当然ながらその結果としてコンテンツの完成度は高くなければ評価が伴わないという悪循環が生じることになる。

ただ、彼らのようにネームバリューや大きな過去の実績があるクリエイターは、インディーというよりもインディーメジャーというべきだろう。本来のインディーズゲーム開発者たちといっしょに語ることは違和感がある。

コンテンツのクオリティ向上がもたらした平準化

しかし、世間一般に革新をもたらす発見や技術は、ジャンル全体の底上げと平準化を促進するという。

それと同じことがコンテンツ(特にこの場合は、インディーズゲーム)でも表れているといって過言ではないだろう。

数年前ならば予測できなかったようなコンテンツが、インディーズゲームとして発表され開発されている。それだけ、全体のレベルやクオリティは向上している。

これらのゲームは、先に挙げた著名なクリエイターたちの活動に刺激を受けたり、独自に開発を行ってきたインディーズ系開発者やスタジオが牽引していることは紛れもない事実である。

それぞれの分岐路

先日閉幕した東京ゲームショウ2016は、過去最大の来場者(271,224人)を記録した。おそらく、発売間近のPlaySation VRとその関連するコンテンツへの期待、年末年始向けの新作への期待もあるだろう。

加えて、定着しつつあるインディーズゲームブースへの関心の高さも挙げられる。しかし、今年のインディーズゲームブースがやや様変わりしていることに気が付いた。

それは日本国内からの出展の少なさである。昨年の日本国内からの出展が多かっただけかもしれないし、ある程度、今まで汗水たらしてがんばって開発してきたコンテンツがリリースされたためかもしれない。

そして、次の作品を準備しているというアイドリング期間だったという見方もできる。来年に期待をしたい。

いずれにしても、何かを創り続けること、何かを発表し続けることの苦難や努力は並大抵のことではない。コンテンツやハードウェアのライフサイクルと同じように、人生には多くの「Branching Paths」が存在するのだ。