The Deer God【ゲームレビュー】

『The Deer God』は、地球上で最も美しい動物の1つともいわれる1匹のシカになって、新たな人生を体験する不思議な世界観の横スクロール型アドベンチャー。3Dピクセルによるアーティスティックなグラフィックが特徴となっている。

シカになって人生の走馬灯を見る
一風変わったアクションアドベンチャー

人間というものは、かつて触れたものに郷愁を感じるようにできている。団塊の世代はフォークに青春を重ね、40代ならバンドブームを思い出すだろうか。グラフィックに関しても同様で、コンピューターゲームが生まれてからしばらくは、ドット(ピクセル)で描かれたグラフィックがほとんどだった。1995年にプレイステーションとセガサターンが発売されると時代は一気にポリゴンへと加速し、ドットは時代遅れのものとして細々と命脈を保つだけの存在となった。

と、まあそんな前置きはさておき、今回紹介する『The Deer God』は、ドットで描かれたオブジェクトが美しいアドベンチャーゲーム。今となっては古臭いドットによるグラフィックが郷愁を誘いつつも、この素朴な世界観に見事にマッチしている。

主人公が旅をする世界には、さまざまな驚きに満ちている。あなたはどのような不思議な光景を目にすることになるだろうか

美しいグラフィックには見とれてしまうが……歯切れが悪くてすみません

Crescent Moon Gamesが開発した本作は、美しいグラフィックと独特の世界観で英語圏のゲームファンの心を鷲づかみ。Windowsはもちろん、Mac、Linux、Xbox Oneなどのハードでもリリースされており、Wii U版の開発も進められているみたいだ。そんな高評価の作品だが、日本語にローカライズがされていないという問題がある。プレイするのに英語が必要になる上、テキストだけではなく英語でのナレーションも入っている。

と、英語が苦手な身としては実に困ったタイトル。さらに、雰囲気を大切にしているからか、ゲーム中で細かな説明がない。うそは書かないつもりだが、間違っていたらすみません。

テキストもこんな感じ。とりあえず2段ジャンプができるようになったのは理解できた

シカになった猟師の話

主人公はシカ。最近はヤギだの食パンだのと変わった主人公のゲームが多いのだが、本作のストーリーはもうちょっと真面目。人間時代に猟師だった主人公が、狩りの最中命を落とし、シカの神様に新たな命を授かったら輪廻転生でシカに生まれ変わっていた……というわけだ。

子ジカからスタートして、時間が経つにつれてどんどん成長して、やがて立派な牡ジカになる。牡ジカは、攻撃力もジャンプ力も子ジカの比ではない。これらの能力を駆使しつつ、マップに仕掛けられた謎を解いたり、クエストを受けたりしていくことに。ちなみに、死んでしまうと子ジカから再スタート。子ジカでもクエストは受けられるのだが、能力が低いのでクエストを遂行できないこともあるだろう。

キリスト教の神様は己の姿に似せてヒトを作ったそうだが、シカの神様だからシカに転生させられるのはある意味当然か

主人公には3つのステータスが備わっている。赤ゲージはライフ(時間経過で回復)、緑ゲージは空腹度(時間で減少し食物を摂ることで回復)、青ゲージは攻撃力(攻撃を行うことで減少し時間経過で回復)となっている

カルマの値によって別の動物に転生!?

ジャンプでマップの中を移動しつつ、ときに襲ってくる敵を倒すといった具合にゲームは進行する。HPを持った敵を倒すと、カルマ(業)が蓄積。カルマには「light」と「Dark」があり、攻撃的なものを倒すと「light」が上がり、友好的あるいは特に敵対的でない相手を倒すと「Dark」が上昇する。この値いかんでは、死んだ後にシカ以外の動物に転生させられることもある。

「Dark」の値が高いため、Deviant(変人)呼ばわりされてしまった

「Dark」の値が高いまま死んだら、キツネに生まれ変わってしまった。そんな人生も悪くない

子どもがいれば能力を引き継げる

自分がある程度成長した状態で雌ジカと出会うと、愛の結晶である子どもを残すことができる。子どもは、自分が死んだときに成長度を引き継げるという特典がある。また、旅の途中で出会った別のシカは、一緒に行動して敵を倒してくれるなど、頼もしい仲間になってくれる。ただし、仲間のシカにもHPがあり、これがゼロになると死んでしまう。

仲間と出会ったら、ハートマークの表示で確認することができる

マップは自動生成で常に変化

マップは横スクロール形式で、移動するにつれてひたすら広がりを見せていく。また、マップは自動生成となっており、プレイするたびに変化する。とはいえ、いくつかのパターンの組み合わせなので、何度かプレイするうちに同じような場所に出くわすことになる。特に、ワナの隠された場所などは自ずと覚えてしまうだろう。なお、配置される敵はランダムなので、この点については運を天に任せるしかない。

地面から生えているトゲは当たると即死。人生、一寸先は闇だ

それが人生というものなのだろう

ステータス画面には、それまで旅をしてきた距離と生きてきた日数が表示される。前述のとおり、自分の行いによるカルマの属性もここでわかるようになっている。日が昇り、また沈んでいくという日々の営みの中、ひたすら前に進んでいくというのは人生の縮図ともいえるのではないだろうか。

そこには出会いも戦いもあり、子を成せば自分の死後もその子が意志を引き継いで、さらに前に進んでいく。プレイするたびにマップが変わるのも、一様ならざる人生の比喩かもしれない。アクションゲームというフォーマットに落とし込まれた本作の物語は、プレイヤーの年齢や性別などで見え方も変わるだろうが、中年になったわが身を振り返れば、そんな思いが去来して止まない。

火の玉が飛び交う人生なんていうのは、御免こうむりたいものだが

確かに、こんなテーマならバリバリの3Dグラフィックよりも、ドット絵の方が温かみがあっていいというのもうなずける。あるいは、あと20年もしたら、温かみのあるポリゴンというものが、新たに生まれてきたりするかもしれないが。

  • 使用した端末機種:iPhone 6 Plus
  • OSのバージョン:iOS 8.4.1
  • プレイ時間:約4時間
  • 記事作成時のゲームのバージョン:1.0

(C) 2015 Crescent Moon Games