【西川善司のモバイルテックアラカルト】第20回: Beats by Dr. DreのNCヘッドフォン「studio ワイヤレス」を使う

前回まではちょっと難しめな話が続いたので、今回はやさしめな内容です。というか、現在、自分にとっての「決定版」を求める製品探しの過程をお届けするような内容です。以前、「西川善司が求める大画面スマホ」というトピックをやりましたが、今回はあれの「ノイズキャンセリング・ヘッドフォン版」みたいな話です。

ノイズキャンセリングヘッドフォンとワタシ

ボクは仕事柄、海外に行く機会が多いのですが、その際悩ましいのは、機内の「ゴー」という騒音です。

この大騒音の中では、音楽を聞いても「ゴー」の騒音がついて回ります。知っている曲ならばまだしも、始めて聴くような曲だと、各楽器パートが知覚しづらいです。

映画ではセリフが聞き取りにくいですし、そうなると必然的に音量を上げたくなってしまいます。

電車、地下鉄などに乗ったときもそうだと思いますが、こうした騒音に包まれる乗り物に乗ったとき、普段よりも数段音量を上げてしまう人、少なくないでしょう。

そんな騒音に包まれる機会の多い我々が常に気にしてしまうのが、ノイズキャンセリング(NC)ヘッドフォンです。

NCヘッドフォンの第一人者といえばオーディオ機器メーカーのBOSEで、ボクは2002年から、BOSEの「QuietComfort」シリーズを初代機から愛用していました。現在の愛機は「QuietComfort 15」です。

NCヘッドフォンは、外界の音波と逆位相の音波をサウンドコンテンツに合成して出力することで、外界の騒音を数理上、打ち消してしまう技術がベースになっています。

この技術の特許を保有していたのが、BOSEだといわれています。

しかし、2005年前後からBOSE以外の各社から同技術を採用した製品の登場が目立つようになってきました。

これは一説によると、BOSEが保有していた基本特許の存続期限が切れたことが大きな理由だといわれています。

とはいえ、ボクは他社製のものを特に意識せず、BOSEのNCヘッドフォンを使い続けていました。

BOSEのNCヘッドフォンは、有償修理をサポートセンターに依頼すると、「■■円で修理することもできますが、○○円で本体のみを▲▲(同クラスの新製品)の新品に交換することができます」という事実上の下取りを提案をしてくれることが多く、イヤーパッド、ヘッドパッドが経年で「ずる剥け」るたびにこのサービスを利用してきたのでした。

これは正規品ユーザーであれば全員誰もが受けられるサービスで、すごいのは正規品であれば、海外で購入したものでも適用になるところです。

ただ、最近では、同業者の知人たちから「最近は、BOSE以外のNCヘッドフォンも、ほんとよくできているよ」という話を聞かされるようになり、そろそろずる剥けてきた愛用のBOSEのQuietComfort 15を見つめながら「他社のも評価してみるかなぁ」という気になってきたのでした。

ビーツ・バイ・ドクタードレって?

今回、「Beats by Dr Dre」(以下Beats)のNCヘッドフォンをお借りして評価してみることにしました。

借りたのは「Beats by Dr. Dre Studio ワイヤレス オーバーイヤーヘッドフォン」というモデルです。

Beatsはオーディオ機器メーカーとしては2008年設立の新興メーカーです。

ヒップホップミュージシャン兼プロディユーサーのドクタードレが立ち上げたというバックグランドがあることから、若い層からの支持を集め、一大ブランドに成長しました。

2014年にはアップルによって買収されて、今では同社の製品はアップル「準純正扱い」になっています。

Beatsは、近年ではNCヘッドフォンの開発を精力的に行ってきていましたが、2014年、NCヘッドフォン技術の特許侵害で訴えられてしまいます。

しかし、その後和解が成立し、現在もBeatsのNCヘッドフォンはちゃんと店頭に並んでいるのです。

こうした経緯を踏まえて、改めてBeatsのstudio ワイヤレスを手にとって見ると、なんだか感慨深いものがあります(笑)。

Beats by Dr. Dre Studio ワイヤレス オーバーイヤーヘッドフォンのセット内容。ヘッドフォン本体の他、USBケーブル、充電機、ミニステレオジャック・ケーブル、マイク付きミニステレオジャック・ケーブルが付属する。価格はアップルストアで37,800円(税抜き)

studio ワイヤレスってどんなヘッドフォン?

実際に手にとってみると、重さは普通です。重くも軽くもないという感じ。

耳全体を覆うオーバーイヤー型で、バッテリー内蔵ということを考えると、公称値260gは、まぁ標準的な重量といった感じです。

バッテリー内蔵ということから想像できるように、studio ワイヤレスは、アクティブ動作タイプのNCヘッドフォンで、バッテリーの電気残量がないときにはパッシブ型ヘッドフォンとしても使えません。

この点は、BOSEのQuietComfortシリーズなどと同じです。

充電は付属のACアダプタを使い、USBケーブル(USBマイクロB端子)で行います。

パソコンなどのUSB端子と直結しての充電も行えますが、studio ワイヤレスをUSBオーディオデバイスとして認識させて使うことはできませんでした。

バッテリー駆動時間は公称12~20時間だそうです。

実際の駆動時間は計測し切れていませんが、約1週間借りていた間、充電は2、3回しか行うことはありませんでしたから、バッテリーのもちはいい方だとは思います。

製品名にワイヤレスとあるように、本機はBluetooth接続に対応したNCヘッドフォンです。

ボクが持っているポータブルオーディオ機器はミニステレオジャック接続のものですし、パソコンやタブレットと接続するときもミニステレオジャックのケーブルで有線接続で使うことが多いので、個人的な本音をいえば、ボクはBluetoothでの接続はあまり重視していません。

ただ、せっかくなので、スマホとペアリングを試してみたのですが、滞りなく行えました。

やり方は簡単。右耳側にある電源スイッチを押して電源を入れ、左耳側のペアリングスイッチを長押しすると、ペアリングモードに移行できます。

注意すべきポイントは、一度電源を入れる必要があるというところくらいですね。

電源を入れた後、このように左耳側のスイッチを長押しすることでBluetoothペアリング待機モードへと移行。写真ではわかりにくいが、ペアリングモード中は小さな白色LEDが点滅する

スマホ側のBluetoothペアリング待機画面に「BeatsStudio Wireless」が出てきたらそれを選択してペアリング完了

実際に出張で使ってみた

今回、このstudio ワイヤレスは、実際にマカオ-台湾出張に携行して試用しました。今回の出張では、使い倒したBOSEのやつはお留守番です。

ここからは、実際にstudio ワイヤレスを使ってのインプレッションを述べていきましょう。

耳にあてがわれる左右のスピーカーユニット、イヤーカップ部は大きめで、ボクの耳程度のサイズではどこも当たらずに完全に囲い込まれる感じであてがうことができました。

皮膚に接するパッド部分もソフトでストレスも少なく、長時間使用でも耳が痛くなることはありませんでした。それこそ、付けたままエコノミー席で寝入ってしまっても苦にはなりませんでしたね。

気になるノイズキャンセリングの効果は、機内に響く「ゴー」という音はかなり低減されます。周囲の人の話し声も静かになりますが、高音成分は残る感じです。

エコノミーシートでstudio ワイヤレスの試聴実験

メインコンテンツとなる楽曲の聞こえ方は良好です。飛行機の中でも、普段使うか、それよりもちょっと上げるくらいの音量レベルで聞くことができました。

音質的には、Beatsのヘッドフォンの特徴だと思いますが、低音のパワー感が良好です。

全体の音のバランスも良好です。低音にはパワー感はありますが、だからといって低音が増強しすぎということではありません。

また、音像の広がりよりは定位感を正確に出そうとする意思が感じられます。スピーカーで言うところの定位感重視の指向性の強い感じの音がします。

主に、Jポップスや、エレクトリック系の楽曲を聴いていたのですが、音質的に不満はありませんでした。

NCヘッドフォンとしては、なかなか優秀な製品だと感じます。

自分が使っているBOSEのQuietComfort 15にはない機能として感心したのは、折りたたみ機能です。

頭の大きさに応じて伸縮可能な左右のフレームの付け根部分を、カクンと折り曲げることが可能で、驚くほど小さくすることができます。

カバンに入れるときは、専用収納ケースにしまってから入れてましたが、折りたたんだ状態であれば、直接上着のポケットに入らなくもありません。

今回の旅では、入国審査を長蛇の列を音楽を聴いたままで待ち、自分の番が近づいてきたときに(カバンにしまわずに)上着のポケットに一時的に突っ込んで審査に臨んでました。

万が一、カバンに入れている間に押されるようなことがあっても、衝撃をイヤーパッドが吸収する構造になっているので、持ち運び時の耐久性もありそうです。

このように折りたためてしまう

付属の専用ケースには折りたたんだ状態で収納する

おわりに

飛行機の中だけではなく、COMPUTEXと呼ばれる台湾で開催されたコンピュータパーツの展示会を歩く際にも使ってみたのですが、群集の雑踏音などにもノイズキャンセリングはいい感じに効いていましたね。

studio ワイヤレスを装着したままCOMPUTEX 2016の会場を練り歩く筆者

COMPUTEX 2016のMSIブースで『ストリートファイターZERO3』をプレイしていたら……

同社のマルチメディア関連製品のセールス担当兼美人プロゲーマーのGill Wangちゃんが「私にもやらせなさいよ」といってきて対戦することに。WangちゃんはMSI自社製のヘッドセットを使い、ボクは今回借りたstudio ワイヤレスを使用

街中で使うのは少し危険ですが、たとえば、街中のカフェやフードコート、ファミリーレストランなどで、ザワザワした場所で何かの作業を集中して行いたい場合にはうまく使えそうです。

すぐにBOSEのQuietComfortから、このstudio ワイヤレスにするかわかりませんが、BOSE以外のNCヘッドフォンも、いまはこんなによくできているんだなぁ……という実感は得られた気持ちにはなりました。

今後も、興味のあるNCヘッドフォンが出てきた時には評価をしてみたいと思います。

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