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【西川善司のモバイルテックアラカルト】第4回: VRの最新動向~続々出てくる新型のVR対応型HMD

西川善司です。
前回はVR対応型HMDの構造についてお話ししました。今回は、VR編のひとまずの最終回として、「VR対応HMDの最新動向」をお話ししようと思います。

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台頭するVR対応型HMDの第三勢力たち

2013年にVR対応型HMDとして、Oculus VRが「Oculus Rift」を発表。新しいゲームのスタイルを提案しました。これが業界に大きな衝撃を与えたことから、VRブームの幕開けにつながりました。

そして、2014年、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)がPS4向けのVR対応型HMD「Project Morpheus」(正式名称:PlayStation VR)の開発をアナウンスしたことで、VRブームは一般ユーザーへの広がりを予感させ、「もしかしたら、本当に次世代ゲームってこういうものなのかも?」という現実味を一般ユーザーに感じさせてくれました。

かつて、iPodがデビューした直後に、同コンセプトのMP3プレイヤーが数多く発売されたように、先駆者がブームを起こせばそれに続く「フォロワー」も登場してくるものです。

実際、Oculus RiftやPlayStation VRに続くべく、「VRブームの波」に乗ろうとするVR対応型HMDの第三勢力は、2015年になってその存在感を強めてきています。

OSVR

第三勢力のVR対応型HMDの1つは、オープンソースプロジェクトのVR対応型HMD「OSVR」(Open Source VR)です。これは、VR開発に興味のある企業や団体が集い、合議制でVR対応型HMDのハード、ソフト両面の仕様を策定していこうというプロジェクトとして発足したものになります。このOSVRプロジェクトの参画企業としてはゲーム関連ハードウェアメーカーのRAZERを筆頭に、ゲームスタジオやモーション入力デバイスベンダーなど、計5社が参画しています。現在、各種展示会で公開されている試作機はRAZERが開発したモノのようですね。

OSVRを体験する筆者。OSVRの対応プラットフォームはWindows PCの他、Androidが挙げられてる。2015年3月時点での完成度は、他方式に対して今一歩といった感じ

SteamVR

第三勢力の2つ目は、ゲームスタジオであり、同時にワールドワイドのPCゲーム配信システム「Steam」をも運営するValve Softwareが進めている「SteamVR」です。SteamVRはValve Softwareが策定したVR規格という位置づけで、このSteamVR準拠のHMD製品の製造は台湾HTCが担当します。現時点での公開情報によれば映像パネルは有機ELで、解像度は2,160×1,200ピクセル、リフレッシュレートは90Hzに対応しているそうです。対応プラットフォームは、Windows PC、Linux、OS Xの他、Valve Softwareが発売計画を進めている非Windows系OS搭載のPCアーキテクチャゲーム機「Steam Machine」も挙げられています。

SteamVRでは、装着者が部屋の中を歩き回っても大丈夫なほどの広い範囲での動き認識を実現する「LightHouse」技術が他方式にはない特長として強く訴求されている

ハイエンド仕様

第三勢力3つ目は、よりハイエンド仕様なVR対応型HMDを実現していこうとする勢力です。Oculus Riftに代表される近年発表されたVR対応型HMDは、この連載の前回でも紹介したように、スマホに活用されているような汎用映像パネルを1枚だけ搭載しています。ところが、2015年6月に、スウェーデンのStarbreezeが左右の目に1枚ずつの映像パネルを割り当てた「StarVR」を発表したのです。StarVRは片目あたり2,560×1,440ピクセルの液晶パネルを割り当てており、左右の目では合わせて5,120×1,440ピクセルの解像度となります。Oculus Rift、SteamVR(2,160×1,200ピクセル)の2.8倍、PlayStation VR(1,920×1,080ピクセル)の3.5倍の解像度ですから、かなり高精細なVR体験が楽しめることになります。対応プラットフォームはWindows PCとのことですが、5,120×1,440ピクセルを毎秒60コマ以上で描画するためには相当ハイスペックなGPUが必要になりそうです。

StarVRを体験する筆者。高解像度感はすさまじく、他方式では若干気になるドット感がStarVRにはほとんど感じられず

スマホ合体型

第三勢力4つ目は、スマホと合体させてVR対応型HMDとして使える簡易タイプです。VR対応型HMDとはいっても「それ」自体に映像パネルはなく、映像パネルの役割を果たすのはスマホになります。この連載のVR対応型HMDの構造解説編でも紹介しましたが、Oculus VRの技術協力の下でサムスンが開発を進めている「Gear VR」もこのタイプです。

そうそう、アメリカでは、このような「スマホと合体させて気軽にVR体験」グッズが今秋、子供向けに発売されるということが話題になっています。発売を予定しているのはアメリカのトップ玩具メーカーのマテルで、製品名は「View-Master」といいます。View-Masterは、GearVRのような特定ブランドのスマホだけに対応するのではなく、幅広い機種に対応します。ただ、子供向けということもあってか、提供されるVRコンテンツは、ゲームよりも学習教材的なものの方が多いようです。

幼児向けVRシステム「View-Master」。VRだけでなくAR(拡張現実)コンテンツにも対応しており、テーブルに置いてあるマーカーをView-Masterを通して見ると、そこからCGが出現する

おわりに

今年の夏、ロサンゼルスで開催されたCGとインタラクティブ技術の学会、SIGGRAPHを取材したのですが、そこではまた新たなVR対応型HMD技術が発表されていました。

それは、VR映像に「本物の遠近効果」を与える技術です。Oculus Riftに代表されるVR対応型HMDでも、3D立体視には対応していますが、再現されるのは「視差による3D立体視」のみです。

人間は現実世界の情景を見るときに、視差だけでなく、目の水晶体の厚みを変えて遠近のピント調整をしていますよね。この「ピント調整」が行えるVR対応型HMDが発表になったのです。発表したのはGPUメーカーのNVIDIAで、機器名称は「The Light-Field Stereoscope」といいます。

ボクも体験してみましたが、表示されている映像の近景に目の焦点を合わせると遠景がボケて自然に見えます。視差だけで再現される3D立体視よりも自然でした。ただ、25段階の遠近映像情報を重ね合わせた2枚の液晶パネル(1,280×800ピクセル)に描画することになるため、解像度は片目あたり256×320ピクセル程度となり、Oculus Riftなどよりもだいぶドットの粗は多い印象でした。昔のガラケーとかDVDカーナビ程度のドット感ですかね。

NVIDIAの「The Light-Field Stereoscope」は、情景の遠近までを再現するVR対応型HMD。映像パネルの解像度を多段階の遠近表現に割り振る原理上、各焦点距離ごとの映像解像度はまだ粗め

まだ発展途上名部分も多いVR対応型HMDですが、それだけに新しい技術も続々生まれてきており、俯瞰視点で動向を見ている分にはかなり楽しげです。来年以降も、また新たな技術が出てくることでしょう。

今後の一般ユーザーの関心としては、VR対応型HMDでどんなコンテンツが楽しめるようになるのか……という部分でしょうかね。この辺りは、実際にOculus RiftやPlayStation VRの製品版がリリースされてからまたレポートしてみたいと思います。