[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第11回: スマホコンテンツ会社の未公開株って?(前編)

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自分が勤めていた会社、または自身が創業者だった会社が破産、もしくは倒産したという経験をお持ちの読者の方はおられるだろうか? 幸いなことに、私はそれを免れた。かつて、株式会社スクウェア(当時)が『ファイナルファンタジー』シリーズを始めとした自社コンテンツやプレイステーションのゲームソフトを販売するために設立した、株式会社デジキューブ(以下、デジキューブ)という会社がそれにあたる。

デジキューブを再評価すべき

今になって考えると、デジキューブはもっと評価されるべき存在であったと思う。

今では、話題のゲームソフトや各種エンタメ系コンテンツがコンビニで購入できるのは当たり前になっている。しかし、これはデジキューブが拓いた販路や販売方法の結果だと思っている。

ひと昔前までは、ゲーム販売店(ほとんどが11:00~20:00の営業時間)や一部の大手量販店に委ねられていたコンテンツの販売網が、デジキューブの台頭で、時間を問わず、身近なコンビニで、自由に選択して購入できるという点で、時代や市場をリードした。

しかし、既存の販売店舗からは従来の流通体系を破壊したことや、過剰な販売特典を付けるということで敵対視されていたこともあった。

デジキューブは1996年に創業、1997年1月31日には『ファイナルファンタジーVII』(以下、FFVII)を販売。当時、私は宣伝の責任者で、FFVIIの予約特典制作をノベルティ制作会社に発注していた。

当初の予約特典はネックストラップで、数量は50万個だったが、予約が相次ぎ、予約枠がFFVIIにちなんで77万人に拡大され、最終的には予約者全員への特典となった。

それだけFFVIIの販売ニーズは高かった。最終的には170万本以上のFFVIIをコンビニで販売した。

その勢いもあり、2000年には大証ヘラクレス(現在のナスダックジャパン)市場に上場を果たした。当時は執行役員だったことと、デジキューブの成長を信じて、自身の預貯金で生株(なまかぶ)を購入した。

当然のことながらロックアップという(株式公開後の一定期間、株式を販売できないように規定する契約と期間のこと)契約があり、販売してキャピタルゲインを得るには至らなかった。

ゴミ処理には手数料がかかる

その後、デジキューブの部門を自分で買い取って(いわゆるM&Aというものだ)独立を考えたが、承諾を得ることができず、自主的に2003年に退任し独立を目指した。

それでもデジキューブ株式は販売せず、塩漬けのままだった。そして2003年11月26日、デジキューブは東京地方裁判所にて負債総額は95億円の自己破産を申請した。

もし、デジキューブが成長を続けていたら……? 数億円の個人資産を保有できていたのかもしれないが、世の中はそんなには甘くない。

最終的に私の持ち分株券はゼロ円、つまりは紙切れ以下のゴミと同義のものなってしまった。さらに追い打ちをかけるように、この株式処理の事務手数料で数万円かかるという幹事証券会社からの通達だった。

今の時代、ゴミ処理は手数料がかかるのだ。

上場ゴールといわれて

このところ、スマホコンテンツの開発会社やパブリッシャーでも、大きな株式公開事案が見受けられる。

中には四半期、通期の収益計画の見込みを大きく下回り、公開時株価を大きく毀損している事例をよく見かける。いわゆる「上場ゴール」と揶揄される企業だ。

ご本人たちにそのつもりがなくとも、実績が物語るケースはままある。

株式公開を果たし、キャッシュが潤沢にあるほうが、開発資金や宣伝販促資金への充当やフレキシブルな展開が可能なことは間違いない。

しかし、企業としてのビジョンやコンテンツへの方針がないまま、ブランドとキャッシュのみを振りかざして進んでも徒労に終わることは目に見えている。

また、そんな企業の株式を購入することになるステークホルダーの利益すら侵害することになる。

自己責任という新世界秩序

株式の売買はあくまでも自己責任である。買う、買わないは自由。しかも、その意思は証券会社から薦めはあっても、最後は自分の判断である。

株式を実際に購入したことのある人ならばわかると思うが、電話売買ならば復唱されて録音もされている。ネットであれば自身の最終意思確認の上での購入となる。

証券会社はあくまでも場貸しである。そして、手数料はキッチリと徴収する。(完ぺきとはいえないまでも)ノーリスクな商売ともいえ、インターネットの世界でいえばAppleやGoogleみたいなポータルだ。

アプリやゲームの世界はにぎやかで、動くキャッシュのダイナミズムも一般的な企業レベルを超えている。ゆえに大きなブレイクスルーや思いがけないイノベーションコンテンツが世に出る可能性も高い。

これからも小さな芽から大きな幹や枝を広げて行く企業は生まれてくるだろう。しかし、玉石混交であることも事実。要注意である。

自分だけは大丈夫!?

デジキューブはファイナルファンタジーに始まり、最後もファイナルファンタジーで幕を下ろした。関係者一同、精一杯努力した結果だったと今も思っている。

ゴミになった数億円は、面白い思い出話として今もこのようにみなさんに開陳できることが幸いだ。

意図してだまそうとする組織や人にはそれなりのテクニックがある。

次回はスマホコンテンツ企業の未公開株の販売を巡る暗部をご紹介したいと思う。

詐欺の被害は、「自分だけは大丈夫」と思っている人に限って、だまされるケースが多いという。みなさんの身の回りでも、目を凝らせば見えてくるかもしれない。光が強いものほど、闇は暗いと昔からいいますよね。