【法林岳之のFall in place】第19回: 災害時だからこそ問われる各社の取り組み

Eye

4月14日21:26分ごろに、熊本県を襲ったマグニチュード6.5の地震。同月16日にはマグニチュード7.3の本震が発生し、熊本県や大分県を中心に大きな被害をもたらすことになった。この場をお借りして、今回の地震で亡くなられた方のご冥福をお祈りすると共に、被災された方々には心からお見舞い申し上げます。

地震発生! そのとき、携帯電話会社は?

日本はもともと、地震の多い国だが、大きな被害を与えた地震といえば、2011年の東日本大震災、1995年の阪神・淡路大震災が思い出される。

単純に比較できるものではないが、今回の熊本地震はこれらの大地震に次ぐ規模の地震とされ、現在も同地域を中心にした地震が継続しており、余談を許せない状況にある。

この他にも水害や台風など、毎年のように、各地でさまざまな自然の脅威による災害が起きているが、こうした災害時には各携帯電話会社をはじめ、業界各社がどのように社会に取り組んでいるのかが顕著に見えてくる。

一般的に、こうした大規模の災害が起きると、当然のことながら、各携帯電話会社は基地局をはじめとした設備の状況を把握し、被害状況に応じて、どのような対策を取るのかが決められる。

余談だが、今回の熊本地震が起きた4月14日、筆者はその時間帯に地方にいて、携帯電話会社の広報担当者の数人と会っていたが、彼らの内、何人かは熊本地震の対応で席を離れることになり、電話などで本社とさまざまな情報交換や打ち合わせをしていたという。

各携帯電話会社は被害状況を把握すると、それに合わせ、サービスエリア復旧のために、基地局などの設備復旧や移動基地局の派遣、被災者支援のために、避難所への充電器の貸し出し、公衆無線LANサービスの無料提供など、さまざまな対応をとることになる。

今回の熊本地震の場合、内閣府が4月17日12:00の時点でまとめた被害状況によれば、停波した基地局はNTTドコモが82局、KDDI(au)が69局、ソフトバンクが193局となっており、停波に至った理由としては、伝送路の切断や電源喪失などが挙げられる。

エリアの復旧については、被害を受けた基地局や切断された伝送路、稼働していない基地局を見つけ、順次、復旧を進めていく。

ただ、今回の地震のように、災害が継続していたり、被災地に入ることも難しい状況があるため、簡単には復旧できないことも多い。

東日本大震災のときを例にすると、基地局が倒壊したり、津波で流されてしまったり、伝送路である光ファイバー網が切断されたため、復旧にはかなりの時間を要した。

このときの反省を活かし、各社ともできるだけ早い復旧ができるような取り組みをしている。

たとえば、NTTドコモは人口密集地の通信を確保するため、半径約7kmという広いエリアをカバーする大ゾーン基地局を全国106カ所(2015年11月現在)を展開している。

大ゾーン基地局は全国の都道府県所在地のような大都市で、周辺の基地局が被害を受けた場合、遠隔操作で運用をスタートし、周囲の広いエリアをカバーするもので、今年度中には大ゾーン基地局をすべてLTE化して、通信容量も確保できるようにするという。

さらに、昨年からは中ゾーン基地局の整備にも取り組んでいる。中ゾーン基地局は既存の基地局を強化したもので、通常時は半径1km程度のエリアをカバーしながら、災害時にはアンテナの角度調整などにより、3~5kmのエリアをカバーする。

4月28日の決算会見では今回の熊本地震でも各地にある大ゾーン基地局や中ゾーン基地局が運用され、迅速なエリア復旧に寄与したとしている。

また、基地局を稼働させるには電源が必要になるが、電源にもさまざまな対策が取られている。

通常、音声通話サービスを提供するための基地局は、停電後も一定時間、稼働させられるバックアップ電源が必要とされているが、NTTドコモは都道府県庁や市町村役場など、災害時に重要な役割を果たす場所の基地局を発電機で無停電化したり、バッテリーで24時間稼働を可能にするなどの対策をしている。

ただ、こうした対応ができるのはあくまでも基地局が稼働する場合のケースだ。基地局が倒壊したり、流失してしまったときは、各社とも移動基地局車を派遣し、スポット的にエリアのカバーを復旧させる。

この移動基地局車も各社が各地域に台数を割り当てて配備しているため、携帯電話会社によってはすぐに配備できないこともある。

少し変わったところでは、今回、ソフトバンクが「気球無線中継システム」と呼ばれる気球型の基地局を被災地へ向かうルート途中の福岡県八女市に設置したことを発表している。

こうした各携帯電話会社のさまざまな対策により、今回の熊本地震では地震発生から約2週間が経った4月27日時点で、各社ともひとまず地震発生前と同等のエリアを復旧できたとしている。

ただ、これはあくまでもカバーエリアの話であって、地域によっては基地局の伝送路がじゅうぶんではなく、音声通話が制限されたり、通信もじゅぶんな速度が得られないケースもある。

特に、移動基地局車などで対応している場合は、伝送路を光ファイバーの代わりに、衛星回線を利用しているため、じゅうぶんな速度が得られないからだ。

スマートフォンや携帯電話で被災地を支援

地震などの災害では各携帯電話会社にとって、エリアの復旧などが最も重要な対応の1つだが、それ以外にもさまざまな形で被災地を支援しようとしている。

たとえば、前述の避難所への充電器の貸し出し、公衆無線LANサービスの無料提供などはよく知られているが、各自治体など、災害復旧に関わる関連機関に対し、携帯電話やタブレット、衛星携帯電話を貸し出すなど、側面からのサポートも行なっている。

そして、被災者に対しては、データ通信の速度制限を解除や一部サービスの無料化、端末などの修理代金の減額など、被災者が少しでも負担が減るような支援が提供されているが、こうした取り組みは各携帯電話会社だけでなく、MVNO各社や端末メーカーなどにも拡がりを見せている。

東日本大震災などでの経験が活かされ、企業が被災地や被災者をしっかりとサポートする体制ができつつある印象だ。

ただ、中には通信業界的に好ましくない支援策もあり、業界内から批判を浴びるケースもあった。

たとえば、LINEは同社が提供する音声通話サービス「LINE Out」を10分に限り、無料で利用できるという施策を打ち出し、楽天グループが提供する「Viber」も同様の施策で続いたが、これらの施策は各方面で厳しく批判され、急きょ、取り下げることになった。

ユーザー目線で見ると、「被災地と連絡を取り合いたいんだから、いいじゃないか」と考えるかもしれないが、実はこれらの施策は通信業界の基本的なルールを守っていないため、批判を受けている。

一般的に、地震や水害などの災害時は急激に被災地の連絡が増え、電話がかかりにくい「輻輳(ふくそう)」と呼ばれる状態になってしまうことがある。

俗に「回線がパンク状態」などと表現されることもあるが、阪神・淡路大震災では阪神エリアに全国からの電話が集中し、何日間も電話がかかりにくい、もしくはかからない状態が続いたため、災害救助や復旧などに必要とされる重要な通信や通話ができず、大きな影響を与えたと言われている。

そのため、災害時には重要な通信や通話を優先するために、被災地の電話網に負荷をかけないように不要不急の電話を控えるという原則が存在する。

ところが、LINEやViberは自社ユーザーの利便性のみを考慮し、無料電話という施策を打ち出してしまったため、業界各方面から批判を浴びたわけだ。

社会インフラを支える企業として、些か軽率すぎる施策だった感は否めない。

では、具体的に被災地とはどのように連絡を取ればいいのかというと、すでに多くの人がご存知のように、自宅の電話番号などを登録して安否の音声メッセージを残せる「災害用伝言ダイヤル」、携帯電話やスマートフォン、パソコンなどでテキストメッセージを残す「災害用伝言板」を利用する。

実は、災害用伝言ダイヤルは阪神・淡路大震災での輻輳を踏まえて開発されたもので、1998年にスタートし、現在は災害用伝言板と共に、災害発生時に一定期間、開設される。

ちなみに、災害用伝言板は各携帯電話会社とNTT東日本/西日本が提供しているが、各社サービスは相互リンクを実施しており、2010年から各社の災害用伝言板を一括で検索できるようになったため、検索したい相手がどこの携帯電話会社なのかを意識せずに使うことができる。

今回のLINEやViberの無料通話は、通信業界的に好ましくない施策だったが、本来、LINEはテキストを中心としたメッセージサービスであり、ネットワークに負荷が少ないという特徴を持つ。

できることなら、その特徴を活かし、LINE版の災害用伝言板を提供したり、各携帯電話会社の災害用伝言板と相互リンクできるようにするなど、本当の意味で災害時にも社会に貢献できるサービスを提供するように取り組んでほしいところだ。