[黒川文雄のゲーム非武装地帯] 第10回: スマホのドッペルゲンガー Miitomo

ドッペルゲンガーという言葉をご存じでしょうか。ドイツ語で、語源は Doppel(ドッペル)で「二重、分身、コピー」という意味があります。一般的には「自分の分身」という意味で使われます。

mixi、GREEに見るSNSの変遷

このドッペルゲンガーには歴史上、いろいろな逸話があって、作家のゲーテ、モーパッサン、リンカーン大統領、日本では芥川龍之介といった著名人が自身のドッペルゲンガーを見たといいます。

ちなみに、見てしまうと死が訪れるという説があるようですが、ドッペルゲンガー現象が事実なのかどうかはわかりません。口述伝承されていくうちに、増幅される都市伝説的な脚色されたものを感じます。

でも、見た本人が亡くなってしまったら、伝えようがないですよね……。

現代社会では、SNSを通じて自分自身の写し鑑(かがみ)のドッペルゲンガーの世界を味わうことができます。

身近な例がmixiやGREEが過去に展開していた友だちネットワークの世界です。それはフレンドを通して自己承認欲求を満たすことで自分自身の存在を確認するものです。

今では想像ができませんが、5~6年前のmixiやGREEが展開する主戦場は、友だちとのつながりとミニブログ的な日記機能でした。

特に、mixiは友だちとのコミュニケーションの際に、「mixiやっている?」という会話が成り立ったほどです。

それと同時に、mixiの自分のページに着いた足あとから「ミク友」になるケースもあり、ある種の出会いを演出していたといっても過言ではないでしょう。

ある日、足あと機能がなくなることになり、制限されるときネット上では大きな騒動になりました(2011年の中ごろだったと思います)。

その後、アメリカから、ツイッター、フェイスブックなどの新しいSNSサービスへユーザーの大半が移行してしまったことと、mixiやGREEがゲームサービスに主戦場を移したたことで、いつのまにかmixiの「足あと」機能のことも忘却のかなたに追いやられてしまいました。

ちなみに、私もmixiユーザーでしたが、すでに2年間くらいログインしておらず、パスワードも忘れてしまいました。

現在はツイッター、フェイスブックのSNSサービスも思ったほど盛んではないようで、インスタグラムやピンタレストがウケているようです。

そのような環境の中で、任天堂が満を持して導入したサービスが、カジュアルなドッペルゲンガーネットワーク『Miitomo』です。

Miitomoコミュニティの今後と期待

Miitomoは3月17日に配信されましたが、わずか3日で100万ダウンロードを突破、4月1日には全世界での利用者が300万人を突破しました。

公式ツイッターの発表によれば、4月27日現在で、全世界での利用者が1,000万人を超えました。

最近リリースされたスマホゲーム中では群を抜くようなハイペースで、利用者を魅了するコミュニティポータルです。

個人的には開始タップからのロード(読み込み)時間の長さ、またそれをカバーするためと思われる、任天堂からのお知らせが途中に入ってくることが気になります。この部分の「待ち」のストレスを改善できると、さらにユーザーインタフェイスが向上するのではないでしょうか。

ただ、フェイスブックやツイッターとは異なり、キャラクターを起動させ動作させるというコミュニケーションのギミックが前提である以上、これを改善するハードルは相当高いのではないでしょうか。

あとは個人ユーザーの登録情報によるところが大きいのですが、日々、フレンド申請されてくる「相手」がいったい誰なのか? と考えこんでしまうことがあります。

この辺りは実名とハンドルネームのどちらにも寄らない仮想世界を演出している限り、どちらか一方に振るのは難しいのかもしれませんが、この部分も自分なりに咀嚼(そしゃく)ができないと離れてしまうユーザーもいるかもしれません。

フレンドに関しては、1人ずつ申請承認をしなければならない部分は対ユーザーへの慎重なポリシーの表れかもしれません。が、ユーザーからすれば、やや手際が面倒と思う一面もあります。

中には、Miiがフレンド本人にまったく似ていないから判別できないという問題もありますが、それは運営側ではどうしようもないですね……。

なお、フレンド申請に関しては、5月12日に配信されたアップデート(ver 1.2)で、LINEやキャリアメールからも招待が可能になりました。フレンド機能に関してはじゅうぶんな改善だと思います。

任天堂によるコミュニティ運営や、Miitomoへの質問なども運営としてはタイムリーなものがあります。

導入当初には、ANIMEJAPAN 2016開催に合わせて、「やってみたいコスプレはありますか?」という質問もありました。

このあたりもフェイスブックやツイッターとも異なる新しいコミュニケーションではないでしょうか。ただし、これは継続していくためには大きな労力がかかります。

その部分では仕組み(システム)を作ることよりも、その後の成長線を描くコミュニティ運営に大きなパワーがかかることは間違いありません。キャッシュも人材も潤沢ありますので今後の改善も含めて期待が高まります。

おそらく、次のフェーズとしては、このMiitomoコミュニティで構築したユーザー会員組織への新規コンテンツの導入、商品やアイテムの購買の促進が図られることでしょう。

さらに、できる限りMy Nintendoとの連動をユーザーに呼びかけていますが、それはAppleでもなく、Googleでもない任天堂独自のポータル化への構想の布石であると私は考えています。

また、面白い要素は、自分もそうですが、Miitomo同士の意外な人間性、嗜好(志向)、パーソナリティも自然に出てくる面があります。私もとあるMiitomoの意外な側面を知ることができました。

言い換えれば、自分も運営側の質問に応えていると、意外な一面をMiitomoたちに晒してしまう可能性もあります。とはいえ、それによって友人の新しい関係が構築できるかもしれません。

一般的な仮想世界のSNS上では、フレンドに嫌なことをいわれたりか書かれたりすることで自我が傷つき崩壊することもあるかもしれません。

しかし、任天堂が演出するMiitomoというドッペルゲンガーはそれらとは無縁のような印象もあります。

とはいえ、アカウント登録人数が増えると想定外の事象が起こります。フレンド登録の面倒さはそのための慎重なポリシーの表れかもしれません。

私もすでに登録して、Miitomoワールドを体験しています。Miitomoワールドが見せてくれる仮想分身のドッペルゲンガーはあなたにとってどのようなものなることでしょうか。