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【法林岳之のFall in place】第1回: 定額音楽配信サービスで変わるモバイルビジネス

  • 2015年08月05日

この夏、スマートフォンに関連する話題で、最も注目を集めているものといえば、定額音楽配信サービスだろう。今回はこのサービスに焦点を当てて、各社の思惑を見てみよう。

激化する各社の定額音楽配信サービス

Appleが2015年6月に定額音楽配信サービス「Apple Music」を発表し、7月1日から日本国内向けにもサービスの提供が開始された。Apple Musicに対抗するサービスとして、コミュニケーションアプリのLINEがソニー・ミュージックエンタテインメントやエイベックスと共に「LINE MUSIC」を、エイベックスとサイバーエージェントが「AWA」を相次いでスタートさせている。この他にもNTTドコモの「dヒッツ」、auの「うたパス」、レコチョクの「レコチョクBest」、KDDIが出資する「KKBOX」など、これまで携帯電話事業者などを中心に提供されてきた定額音楽配信サービスもあり、各社の競争が激しくなってきている。

定額音楽配信サービスとしては、スウェーデンでスタートした「Spotify(スポティファイ)」が最も成功したといわれており、すでに全世界で7,000万人を超えるユーザーを抱えているという。残念ながら、Spotifyは日本向けにサービスが提供されていないため、国内で楽しむことはできない。それでも一部の熱心なツワモノは、海外のサイトにVPN(Virtual Private Network)で接続して、あたかもサービス対象国からアクセスしているように見せかけて、Spotifyで音楽を楽しんでいるという。

Apple Music

国内の音楽市場

定額音楽配信サービスの提供は難しいと考えられてきた国内市場において、Apple MusicやLINE MUSIC、AWAなどの各社サービスが開始された背景には、不振が続く国内の音楽市場がようやく重い腰を上げたことが挙げられる。音楽CDの売れ行きが長く低下し続けていることはよく知られているが、音楽コンテンツのビジネス全体で見ると、音楽CDの販売と音楽をダウンロードする有料配信サービスを合わせた音楽市場全体の売り上げは10年以上、減り続けている。特に、国内の音楽市場は海外に比べ、音楽CDのパッケージ販売に力が入れられ、ダウンロードをはじめとした有料配信サービスへの取り組みが遅れたと言われており、AWAのCM発表会にゲストとして登場した音楽プロデューサーの小室哲哉氏も「これまでは買ってもらう音楽だったが、これから聴いてもらう音楽を作ることができる」と定額音楽配信サービスに期待を寄せるコメントを残していた。定額音楽配信サービスでは楽曲の再生回数によって、アーティストの収益が決まるため、いかに聴いてもらうかが勝負のポイントになる。いろいろな仕掛けを施して、音楽CDのパッケージを売って稼ぐ時代では終わるだろうという指摘も多い。

LINE MUSICとAWA

Windows Phoneへの期待

定額音楽配信サービスの登場で変わってくるのは、必ずしも音楽ビジネスだけではない。スマートフォンをはじめとしたデバイスや通信サービスでも新しい取り組みが生まれてくるかもしれない。

現在販売されているスマートフォンでは、iPhoneやAndroidスマートフォンはもちろん、復活が期待されるWindows Phoneでも音楽再生機能がサポートされている。「音楽と言えば、iPhone」と捉えられがちで、「Apple MusicはiPhone/Mac向け」と誤解されることもあるが、Apple MusicはWindowsパソコンでもiTunesで楽しめるうえ、2015年の秋をメドに、Androidプラットフォームにもサービスが展開される予定だ。

Windows Phoneについては最新のデバイスがマウスコンピューター製「MADOSMA」しかなく、各社がアプリを提供するほどの市場規模がない。しかし、7月29日に公開されたWindows 10では、1年間限定でWindows 7/8/8.1からの無償アップグレードが提供されており、今秋にもリリースされるスマートフォン向けWindows 10 Mobileではパソコン向けのWindows 10とアプリが共通化されるため、各社の定額音楽配信サービス向けのアプリがWindows 10向けに供給されれば、Windows 10 Mobileを搭載したWindows Phoneでも楽しめる可能性がある。

データ通信サービスの価値基準

また、定額音楽配信サービスでは数百万曲から数千万曲のライブラリを月額1,000円程度で聴き放題になるが、基本的にはスマートフォンなどのデバイスをインターネットに接続した状態で楽しむことになる。インターネットに接続されていない状態でも楽しめるように、一定の楽曲を端末本体に保存できる機能があるものの、あくまでも基本はストリーミング再生だ。そうなってくると、通勤や通学などの移動中に音楽を聴くには、常にモバイルデータ通信をすることになり、各携帯電話会社のネットワークの真の実力が試されることになる。これまでは各社とも「接続率No.1!」「エリア充実!」「受信時最大○○Mbps!」などと訴えてきたが、定額音楽配信サービスを楽しむという視点から考えれば、そんなことよりも「切れないこと」「速度が安定していること」が強く求められることになる。

ただ、ストリーミングで音楽を再生するということになると、気になるのは月々のデータ通信量だ。現在、各携帯電話会社では月々に利用できるデータ通信量を選ぶ料金プランを設定しており、決められたデータ通信量を超えると、通信速度が数百kbps以下に抑えられてしまう。そのため、通勤や通学、移動中に、毎日、定額音楽配信サービスで音楽を聴き続けると、月々のデータ通信量を超えてしまう可能性がある。しかし、定額音楽配信サービスで提供される楽曲はビットレートが最大でも320kbpsまでなので、必ずしも各携帯電話会社が提供するモバイルデータ通信サービスの最高速は求められていない。むしろ、MVNO各社が提供しているような「速度は数Mbps程度だが、データ通信量は事実上、無制限」というプランの方が適しているという捉え方もできる。そう考えると、MVNO各社は定額音楽配信サービスに強く意識した料金プランを提供してくるかもしれないし、MVNOの回線と定額音楽配信サービスをパッケージングしたサービスが登場することも考えられる。

スマートフォンでの課題

一方、スマートフォンをはじめとするデバイスも変わってくるかもしれない。スマートフォンの音楽再生機能ではここ1~2年、ハイレゾをはじめとする高音質化の取り組みが活発だった。しかし、ハイレゾ音源は音楽CDよりも高音質であるため、楽曲を改めて購入しなければならず、正直なところ、メーカーや音楽業界は踊れど、多くのユーザーが積極的にハイレゾを求めるという状況にはなっていない。むしろ、今回の定額音楽配信サービスの登場で、「ハイレゾより、聴き放題」と考えるようなユーザーが多いことが考えられる。ただ、定額音楽配信サービスで提供される楽曲は、音楽CDほどの高音質ではないうえ、前述のように回線速度の影響も受ける。しかも連続的にモバイルデータ通信をしながら、音楽を再生するため、バッテリーの消費も増える傾向にあるはずだ。そうなってくると、端末の機能としては「ストリーミング再生でも省電力」「ストリーミングの音楽を高音質化」といったものが搭載されてくるかもしれない。今後の端末メーカーや関連企業の取り組みが期待されるところだ。

各社の定額音楽配信サービスの競争はまだ始まったばかりで、今後、どのようにサービスが展開されていくのかは見えない部分も多いが、音楽業界だけでなく、スマートフォンやパソコン、周辺機器、通信サービスなど、さまざまな業界を巻き込んで、市場を大きく変えていくことが期待される。また、各社のサービスはサービス開始から数か月、無料で利用できるので、ユーザーとしては今のうちに登録して、いろいろと試しておきたいところだ。

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