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【西川善司のモバイルテックアラカルト】第2回: 近年の人気キーワード「VR」

こんにちは。西川善司です。
初回は自己紹介的な内容でしたが、今回からモバイルやスマートフォンと関係の深い技術の話や、そうでもない話(?)なんかをいろいろととり上げていきたいと思ってます。いずれにせよ、多少なりともゲームに関係のある話題です。
今回から数回に分けて、最近ゲーム好きの間で話題になりがちなVR(Virtual Reality)、すなわち「仮想現実」の話題をお届けしたいと思います。

仮想現実(VR)ってなに?

今回は、VRブームになるまでの経緯をザックリとお話ししたいと思います。

VRとは、被験者(ユーザー)に、実在しない疑似知覚情報を与えて、あたかもそこが現実世界であるかのような体験をしてもらうことです。

「疑似知覚情報」というとなんだかSFチックで仰々しいですが、これは平易にいえば、「ユーザーにCG世界を見せたり(視覚)、サウンドを聴かせたり(聴覚)すること」ということになります。もちろん、五感は視覚聴覚以外にも嗅覚、味覚、触覚もあるので、そうしたものを与えて現実であるかのように思わせられればVRです。

現在、このVRの実現に適した装置(デバイス)として、開発が急速に進んでいるのが「ヘッドマウントディスプレイ」(HMD)と呼ばれる装置です。HMDは1990年代にすでに製品化されていて、一定の人気を誇っていました。

なかでも人気があったのは、ソニーが1996年~1999年の間に発売した「グラストロン」シリーズです。後にグラストロンというブランドはなくなりましたが、2011年からは同コンセプトの製品として小型の有機ELディスプレイを2枚組み込んで構築された「HMZ-T」シリーズをリリースしています。HMZ-Tシリーズも「20m先に750インチの大画面を見ることができるHMD」として登場しており、暗闇の中に浮いている大画面を見る体験を提供します。グラストロンもHMZ-Tシリーズも、仮想世界に入り込んでしまう没入感というよりは、「バーチャルな大画面」を体験するためのもの……という感じでした。

昨今のVRブームの火付け役は「Oculus Rift」

現在のVR熱の発端は、2013年3月にサンフランシスコで開催されたゲーム開発者会議(GDC)の展示ブースにて展示されたOculus VRが開発した「Oculus Rift」にあるといわれています。

Oculus Riftの装置の外観は、グラストロン/HMZ-Tシリーズと似てはいますが、ヘッドトラッキング(頭部の動きを追跡する)機能が内蔵されていて、ユーザーの頭部の動きに合わせてCG世界を全天周に渡って見回すことができる点がグラストロン/HMZ-Tシリーズとは決定的に異なります。「画面に表示されている映像」という概念ではなく、「映像世界に取り囲まれている」表現が実現されていたことから、口コミでそのすごさが広がり、それ以降の展示会でOculus Riftが展示されると、黒山の人だかりができるようになったのでした。

2013年に公開されたOculus Riftのプロトタイプ「DK1」では、ユーザーの頭の「上下の傾き」「左右の首振り」「時計回り、反時計回りの回転」の3軸自由度までの対応でした。つまり、椅子に座った被験者が、首を回したり上下させたり傾けたりすると、その視界がHMDにリアルタイムに追従して表示される体験が味わえました。

それだけでもじゅうぶん「すごい」といわれたものでしたが、翌年の2014年に公開された第2プロトタイプ「DK2」では、さらにユーザーの「左右の移動」「前後の移動」「上下の移動(高低の移動)」の3軸自由度を追加した6軸自由度に対応しました。つまり、DK1のときとは違って、椅子から立ち上がったり座ったり、あるいは立った状態から少し歩いたりしても、その位置や向きの視界のCGを表示できるようになったのでした。

Oculus Riftの第3プロトタイプ「Crescent Bay」を体験する筆者。壁に手を掛けて向こう側を覗いている様子。Oculus Riftの製品版は2016年第1四半期に発売予定。対応ハードウェアはパソコン

Oculus VRは2014年後期から2015初頭にかけて、解像度と表示応答速度を上げた第3プロトタイプの「Crescent Bay」を公開。そして来年、2016年第4四半期にはプロトタイプではない製品版の「Oculus Rift CV1」を発売することをアナウンスしました。

2013年のお披露目からOculus Riftがここまで短期に注目を集めたのは、制作したプロトタイプを展示会で展示・披露するだけでなく、それぞれを「開発者向け評価キット」の形でテスト量産して、一般の開発者向けに販売したことが大きな要因といわれています。価格も300ドル(当時の日本円にして3万円前後)で、それほど高価でなかったことも人気を加速させました。ちなみに、テスト量産のプロトタイプ製品にもかかわらず、2013年内に6万台を出荷したというのですから、その人気は相当なものですよね。複数の日本のゲームスタジオでも評価を開始しており、日本のゲーム開発シーンからの注目度も高いようです。

Oculus Rift対抗馬として登場したProject Morpheus

こうして日本国内にまで波及したOculus Riftセンセーションは、あの日本のゲーム業界の巨人、プレイステーション(以下、PS)のソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(以下、SCE)までを動かすことになりました(※SCEの見解としては以前からVRは研究していたそうですが)。
2013年のOculus Riftの電撃的公開から遅れること約1年。SCEも、開発コードネーム「Project Morpheus」(以下、Morpheus)というPS4向けVR対応型HMDを2014年3月に発表したのです。実装形態は一部、Oculus Riftとは異なりますが、MorpheusもOculus Riftと同等の6軸自由度のユーザーの頭部トラッキングに対応し、スペック的にはほぼ拮抗していました。

その後、2015年にかけて、VR対応型HMDはOculus VR社、SCE以外の、その他の各社からも矢継ぎ早に発表されることとなり、今の「VR対応型HMDブーム」が到来したのでした。

SCEがPS4向けに開発中の「Project Morpheus」(開発コードネーム)。事実上のPS4の周辺機器として2016年前半に発売される予定

おわりに

実は、産業用や業務用には以前からVR対応型HMDは存在していました。しかし、その価格は数百万円以上しましたし、HMDの筐体も巨大でした。しかし、現在ブームとなっているものは非常に小型ですし、安価になるとみられています。次回は、この辺りの秘密を解説していきたいと思います。