Calvino Noir【ゲームレビュー】

荒廃したディストピアの雰囲気を、シックなモノクロのビジュアルで表現したミステリーアドベンチャー『Calvino Noir』。特徴の異なる3人の主人公を操作して事件の謎を探るという、ハードボイルドな世界が楽しめる。

モノトーングラフィックがハードボイルドを加速する
とある事件の謎を追うステルスアドベンチャー

何かに追われる夢というのは自由への渇望を表すそうだが、モノトーンでまとめられた『CALVINO NOIR』の世界観は抑圧と呼ぶにふさわしい。本作は、1930年代のヨーロッパの裏社会を舞台に悪徳政治家のスキャンダルを追ううち、さらに大きな事件へと巻き込まれてしまう男女の物語を描いたステルスアドベンチャーだ。

雨に煙る町の片隅で起きる事件……。欲望も愛憎も、あらゆる人間の感情が淀んだ水に覆い尽くされている

それぞれ特徴の異なる3人の主人公が登場

本作には3人の主人公が登場。プレイヤーは、始末人のウィルト、依頼人のシスカ、ウィルトの古なじみのアルノの3人を操作して進んでいく。ウィルトは警備員を無力化でき、シスカはカギ開けとカギ穴のぞき、アルノは機械操作と、それぞれ得意分野が異なる。

基本的には、ウィルトが警備員を無力化している間に、シスカが鍵穴をのぞいて安全を確認し、機械があればアルノが操作するという流れになる。この特徴以外の性能は3人とも変わらない。

キャラクターを交互に操作しながら、警備員に見つからないように建物内を探索していく

ギミックを使って警備員をおびき寄せる

ゲームオーバーの条件は、警備員に見つかって射殺されることのみ。しかし、警備員のアルゴリズムが非常にいやらしく、場所によってはなかなかこちらに寄ってこない。こういう場合には、物音や光で警備員を引き寄せることができる。

とはいえ、正面から向かい合うと銃で撃たれてしまうので、物陰に身を潜めながら戸を開閉させるなど、その場にあるギミックをうまく使ってこちらの攻撃範囲に引きずり込もう。

走って移動することも可能だが、物音を立ててしまうため警備員に見つかりやすくなる。懐中電灯も同様で、闇の中での視界が広がる一方で警備員がこちらを視認できる範囲も広がってしまう

警備員の頭上に表示された赤いバーが、彼が異変を認知したことを示している。物音がする、光っているなどの状況を感知するとバーが伸び、一定以上で「?マーク」に変わって異変のある場所に寄ってくる。ただ、バーが伸びてしまっても時間の経過で元に戻る

サウンド&アーキテクチャーが世界観を補完する

本作の特徴はなんといってもモノトーンのグラフィックだが、フィルム・ノワール(かつて流行した退廃的な雰囲気の犯罪映画)のような世界観を補完する仕掛けはまだまだある。

本作では基本的に、建物の中を探索して歩くことになるが、この建築物の設計をデザイナーのCeri Williams氏が担当。彼女のデザインによって、1930年代という時代の説得力が大きく増している。

また、重低音の効いたジャジーなBGMが、20世紀初頭の雰囲気とハードボイルドな物語のスパイスとしてうまく機能している。物音を聞くことも攻略に必要な要素だが、それらの効果音をじゃますることなく、かつ決して存在感を失わないとバランスは見事である。キャラクター同士の会話はフルボイスで、ニヒルで小気味い会話というエッセンスが20世紀初頭の匂いを濃厚にしている。

建物内の調度品など、細かなものまでていねいにデザインされている

直訳に近いテキストが、ハードボイルドミステリー全盛の頃の翻訳小説をほうふつとさせる

7つのCHAPTERと3つのACTで構成された物語

本作では7つのCHAPTERを3つのACTに分割しており、プレイヤーはACTごとにそれぞれを購入する形となっている。一括購入することで割引も適応されるが、まずは試しにACT Iを遊んでみるといい。前世紀には一般であったこのような世界観の作品も最近は少々鳴りを潜めており、万人におすすめできるかどうかというと疑問が残るからだ。

また、アクションの難易度もそこそこ高いので注意が必要だ。ただし、反復して挑戦できるようにチェックポイントは細かく設定されており、ロードに多少の時間が掛かるとはいえ、トライ&エラーのストレスは少なくなるよう工夫されている。

ACT IIを購入せずにACT IIIを購入することもできるようだが、CHAPTER IIIの後にCHAPTER VIを遊べるかは不明……

なお、本作を屋外で遊ぶことはまったく推奨されない。画面に光が当たるとディティールが溶け込んで見えなくなってしまう。これはモノクロの作品世界を採用したことによる弊害だが、日の当たらない世界での物語を太陽の下で遊ぶことに違和感を覚えるので、屋内でじっくり遊ぶのがいいだろう。また、バッテリー消費が激しいことも屋外でのプレイを推奨しない理由の1つだ。

まったくの余談で恐縮だが、大学を留年した際、親と顔を合わせないように息を潜め、物音をたてずに帰宅していたことを思い出した。個人的にあの時のスリリングさがリンクして、ゲームへの没入感が他の作品の比ではなかった。そんな体験をされている方もなかなかいないと思うが、誰しも何かに追われた経験の1つもあるだろう。そんな経験を喚起させられれば、本作のこの緊迫感は得難い体験になると断言できる。

  • 使用した端末機種:iPhone 6 Plus
  • OSのバージョン:iOS 8.4.1
  • プレイ時間:約3時間
  • 記事作成時のゲームのバージョン:1.2

(C) 2014 Calvino Noir Limited